料理人を通して見る、知る 食の世界「キュイジニエ・オンライン」 CUISINIER ONLINE

    Feature特集

    和歌山県有田川町 Vol.1

    2018年7月、和歌山県有田川町で、ヴィラ アイーダ(和歌山・岩出)小林シェフが発起人となり、1泊2日のイベント「G.G.プロジェクト 感性の授業」が催されました。県内外からの参加者に、有田川の自然や産業に触れ、地元の食材を使ったディナーを楽しんでもらうというもの。ディナーのサービス(配膳)は有田川町内の高校生が、料理は小林シェフの呼びかけで集まったシェフたちが担当。キュイジニエ・オンラインでは、このイベントの準備から当日までの、シェフたちの活動を取材しました。(全4回)

    PHOTO: CUISINIER編集部

    有田川町は、全国で生産量一位の「ぶどう山椒(※)」をはじめ、有田みかんやぶどうなどの果物や、野菜も生産されている農業の盛んな地域です。地元の県立有田中央高等学校でも、総合学科の中に農業系列があります。ですが、選択する生徒は年々減っているそうです。また、ぶどう山椒の生産が盛んな地域にある清水分校では、全校生徒が11人と存続が危ぶまれる状況です。

    それを聞いた小林シェフが、地元高校生に、さまざまな場所で食に関わる体験をし、学びにしてもらえればと企画したのが、今回のイベントでした。

    料理・食業界の前線を知る料理人が、有田川・和歌山の食材を使って料理を作り、高校生をはじめとした地元の人たちにも参加してもらう。料理で引き出された素材の魅力に触れて、身近すぎて気づきにくい地元の食の豊かさを感じてほしい。小林シェフはこのイベントのために、日ごろから親交のあるシェフたちに協力を呼びかけました。

    ※ぶどう山椒…山椒のなかでも大粒でブドウのように房状に実り、香りや食味が優れるとされる品種

    円柱状に冷やし固めたオパリーヌ

    5月の上旬、フロリレージュ(東京・神宮前)の川手シェフがアイーダにやってきました。有田川町役場の方々もいらして、ミーティングです。まずは町の産業の概要を聞き、ぶどう山椒の他、シェフたちが使う食材の確認からはじめます。

    小林シェフ、川手シェフとも、野外での料理イベントを何度も経験しています。また、川手シェフは料理人さん同士のコラボレーション経験も豊富。必要な厨房環境や素材などのポイントを的確に押さえながら打ち合わせを進めていきました。

    みなさん、最初はまるで形が見えずに手探りの様子でしたが、ぼんやりとイメージがつかめてくるにつれ、表情がやわらかくなっていきました。そうして「あとは現場を見てからですかね」というくらいにまとると、川手シェフと役場の方々はアイーダで軽いランチをとりました。

    その後、新潟の「里山十帖」を運営する「自遊人」岩佐さんとスタッフさんも合流し、予定しているディナー会場に移動です(有田川町は株式会社自遊人と協定を結び、地域の活性化に向けて連携をとっている)。

    ちなみに、ランチのパスタは花ズッキーニのペンネでした。花ズッキーニをくったりと炒め、トマトや白ワインなどでわずかに酸味をきかせて甘みとのバランスをとり、茹で上げたペンネにからめます。

    • 季節は初夏。この時期の前菜のひとつ、小指の先ほどの蚕豆、イカ、レタス。

    • 途中小林シェフは川手シェフたちのテーブルに出て打ち合わせに参加していました。

    • 花ズッキーニのパスタ。実を炒めて花を加え、しんなりと炒めます。

    • ゆで上がったペンネを手早くよく合わせ、チーズをふってテーブルへ。

    • 小林シェフのお昼用に、マダムの有巳さんが握った梅干おにぎり。

    • 出発します。ランチ営業の小林シェフは後から合流予定。

    有田川町は、和歌山県中央部の北寄りにあります。ディナー会場はその中でも東側の山深い清水地域(旧清水町)。大阪に近いアイーダからは、南に車で2時間ほど走りました。ちょうどミカンの花の時期で、車の窓をあけると甘い香りが流れ込んできました。

    清水地域に入り、景勝地や山椒畑、葉ワサビ畑に立ち寄りながら、会場の「やすけ」に到着。清水地域は前述の「ぶどう山椒」の発祥地とされ、栽培が盛んに行われています。高い標高が山椒の生育に適しているそうです。

    • 有田川の景勝地「蔵王橋」。川手シェフは高さを確認し、Uターン。

    • 蔵王橋のかかる、二川ダム湖。

    • 棚田「あらぎ島」。日本の棚田百選のひとつです。

    • 山椒畑のとなりにきれいな川が流れて、魚もたくさん泳いでいました。

    • ワサビ畑。この時期はとくに葉の緑が美しく、周囲の空気も澄んでいました。

    会場の「やすけ」につくと、ほどなくして、小林シェフも合流。「やすけ」は古民家で、ふすまで仕切られた座敷と、調理場つきの土間がありました。座敷はふすまを外すと、会場として十分な広さのようです。

    円柱状に冷やし固めたオパリーヌ
    座敷のとなりには囲炉裏が。

    集まった全員で囲炉裏を囲み、内装のイメージや使用する器、サービスの導線などを話し合います。自遊人の岩佐さんは、このタイミングで決めなければいけないことを、シェフ、役場の意見を吸い上げながらまとめていきました。

    打ち合わせが一通り済んで外に出たときに、役場の方が「これは使えますか?」と舟形の木の器を差し出しました。近隣の方が作っているそうで、急きょ、その方のところへも立ち寄ることに。聞くとどうやら専門は木工ではなく、棕櫚(しゅろ)縄の職人さんということでした。

    棕櫚はヤシの仲間の植物で、皮からとった繊維がタワシや箒などに使われます。棕櫚縄の生産は、古くから有田川とその周辺の産業のひとつです。

    • 棕櫚紐工場。ほぐした棕櫚の繊維を縄状に加工する機械。

    • 棕櫚縄はさまざまな太さのものがありました。シェフたちは細いものがナプキンリングになるのではと考えたようです。

    • 先ほど見せてもらった器の、内側をなめらかに仕上げられるか確認します。

    • 工場の前にある棕櫚の木。この皮から繊維をとります。

    帰りにもう一度「あらぎ島」の見えるポイントへ。本番が行われる7月には、田んぼに青々とした稲が育っているはずです。

     

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