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    Feature特集

    インタビュー logy 田原諒悟 Vol.2 食材の力を借りない料理

    台北logy(ロジー)のシェフ田原さんに、市場を案内していただきながら食材や自身の料理についてのお話を伺いました。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    訪れたのは松山空港近くの生鮮食品市場。野菜、フルーツ、鮮魚、精肉がひととおり揃っています。

    田原――いつ来ても、ないことないんですよね。いろいろな素材が。筍も、去年から今年まで、このサイズ(大きい)がなかったことがない。細いやつは出てくるシーズンがあるんですけど、この大きい筍はつねにあります。たぶん季節で品種は違うと思うんですけど。味は、夏のものはめちゃくちゃ甘くて、とうもろこしみたいな感じです。

    編集部――以前、お料理に季節感を出すのが難しいとおっしゃっていましたね。少しわかりました。

    田原――あと、台湾の柑橘、みかんとか、オレンジとか、グレープフルーツに、酸味がないです。「あれ? 酸味はどこいったかな?」みたいな。とくにみかんと文旦。文旦は苦くもないし、酸味もなくて、甘い。あ、これ、台湾のゴーヤです。(小さくて)かわいいから使いたいんですけど、とても苦いです。

    • 野菜売り場には日本でもおなじみの素材の他、台湾独特のものも。味は全体に薄めで、ハーブは味そのものが日本のものと違い、エシャロットはニンニクのニュアンスが強いそう。

    • 取材時(秋冬)がシーズンという菱の実(菱角・りんじゃお)。現地では栗のようにボイルするなどして食べるそうですが、田原さん曰く「形はかわいいけど味がない」。

    • この日田原さんが探していたステムレタス(茎レタス)。レタスの芯のような感じで、皮をむいて使い、これだけでも成立しそうな味とのこと。出始めでまだ細い。

    • 品数が多く揃う鮮魚コーナー。日本からの輸入品も多数。アマダイやノドグロは台湾でも高価だそう。

    • 「台湾のカニはワタリガニ系です。身が少なくてミソが多い。アワビは肝に味がない。たぶん、味のある海藻がないんじゃないかな。イカは日本と同じ感じの味で、クルマエビはかため。イセエビはおしいです(田原さん)」

    編集部――食材の仕入れはどうされているのですか?

    田原――魚は、今は決まったお魚屋さんからとっています。最初のころはいろいろな業者さんを試しましたが、いい素材を扱っていてもすぐに冷凍してしまって生が手に入らなかったり、仕入れる量が少ないと相手にしてもらえなかったり。返品は基本的にできないし、相場をちゃんと調べないと高く設定されていることがあったりもしますね。

    編集部――試していって、きちんと対応してくれるところを見つけたということでしょうか?

    田原――そうです。

    編集部――日本だと同業の方の紹介というお話も聞きますが。

    田原――台湾でもそれはあります。ただ、知り合いのシェフが使っているからといって、新しいよそ者がそこに行っても、同じようにはやってくれません。自分で見つけていくしかないですね。業者さんは素材ごとに専門があって、細かく分かれているんです。お店に業者さんリストが何百件もあるんですけど、よく使うところはだいたい決まっています。市場ではこうやって、欲しい素材の出回り具合とか、仕入れ価格と大きな差がないかとかを見る感じです。

    • 続いて台北中心地の西側にある油化街(ディーホアジエ)へ。乾物やスパイス、漢方食材、雑貨、カフェなどが集まる場所。

    • ここで田原さんはフカヒレ、干しアワビ、干しナマコなどの値段をリサーチ。「(中華食材は)ここに住んでいなかったらわざわざ使わないけど、今は住んでいるから使ってみようかなと思う(田原さん)」

    • 何軒もある漢方食材屋さん。台湾では正月やお祝いのごちそうとして、瓶で蒸した薬膳スープを食べる文化が。家庭ごとにスープの調合は異なるそう。

    • ニンニクや生姜の専門店。「生姜は1年、2年、3年と寝かせたものがあって、古いほど辛みが強いです。その他に新生姜のような生姜が一年中出回っています(田原さん)」

    編集部――こうした台湾の素材は、どのようにお料理にとり入れているのでしょうか?

    田原――台湾の香りを使う時は、日本のものと合わせる感じにして日本っぽくします。

    編集部――日本っぽくですか?

    田原――「台湾フレンチ」みたいな感じは、僕は合わないと思います。だったら、日本料理のほうに寄せて、もう少しクリーンに仕上げるとかがいい。日本の味つけに台湾のフレーバーが入っている食べ物はあんまり見たことないし、食べたこともないから。たとえばチキンストックとザーサイでとったスープにかつおぶしを入れて合わせだしを作るとか。そういう味のベースで、日本と台湾(の味や香り)を使っています。だから(logyのシグニチャーディッシュの)茶碗蒸しも、日本っぽくありながら、きれいな台湾っぽさのあるコンソメのスープを合わせています。

    あれはシグニチャーとして成立するように、世界中どこでも同じものが作れる素材しか使っていません。だから、すごくシンプルなんです。でも、ちょっとだけ変えたら……コンソメに干しイカを入れてスープをとって、カニのサラダはヴィネグレットで和えているだけなんですけどクコの実を入れて。クコの実と干しイカを抜いたら、ヨーロッパでもあり得る。そのふたつの要素だけで台湾っぽく仕上がるようにしています。それが、僕が思うバランス。台湾過ぎなくて日本っぽいんだけど、ヨーロッパでも作れる、だけど、誰も作らない味。

    編集部――誰も作らないのはどうしてですか?

    田原――え、だって、作らないですよね。僕、住んでるからじゃないですか? それに尽きると思います。ああいうのを作りたいんですけど、なかなか難しい。食材の力を借りたらここでしかできないものになってしまう。台湾にしかないものを使って台湾を表現するのはとても簡単だけど、世界中どこでもある、いもとか、キャベツとか、ビーツとか、根セロリとか。今どこでも流通しているものを使って、台湾っぽく、日本っぽく仕上げる。僕は、そのほうがいい。

    • 油化街にある布屋さんへ。1Fは食材や飲食店のフロアで、建物の外からは上に布屋さんがあるとは一見わかりません。

    • テーブルナフキンに使う布を探していた田原さん。お店のユニフォームのシャツも好みのものが見つからず、自身で色、デザインを決めて発注したのだそう。この後雑貨店に立ち寄り什器をチェック。オープンから1年、「全然納得いっていない」というお店の備品などを少しずつ変えていきたいと話しました。

    Vol.2 Fin.

    「Vol.3 台湾で得た視点」に続きます。