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    Feature特集

    インタビュー logy 田原諒悟 Vol.3 台湾で得た視点(1/3)

    台北logy(ロジー)のシェフ田原さんに、シェフとして初めて過ごした一年と、今の料理観について伺いました。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    編集部――こちらのお店のシェフになられたのは、自然な流れだったのでしょうか?

    田原――ここに来たのは、何でだかわからないです。気づいたらいました。

    編集部――いやいや、どういうことですか、それは。

    田原――川手シェフは、僕に直接「台湾でシェフを」という話はしていないです。冗談みたいな言い方で、「よし、台湾どう?」「台湾いいと思うけどなー」ぐらいまでのところで止まっていたんですけど、お店の周年パーティーの時に、「来年台湾でお店をオープンします、シェフは諒悟」って言ったんです。数十人のフロリレージュのゲストがいる前で。で、「諒悟、挨拶」って。シェフは同意があったもの、その後にそれがあったものと思っていると思いますけど、僕は本当に知らないですから。

    でも、「シェフは諒悟」って言われた時に、僕は「えっ?」って、ワクワクしたんです。だから、挨拶って言われて、しました。「来年台湾でシェフをやる田原です」って。やるからにはこういうところを目指してこういうふうにやっていきたいと思います、台湾にぜひ遊びに来てくださいって。

    編集部――そうだったんですか。

    田原――そういう流れですね。台湾にきたのは。正直、日本でやるにしても、そういう年だなって思っていましたし。

    編集部――そういう年とは?

    田原――僕、自分でどうしても店を開けたいと思って今まで働いてきたわけじゃないんですけど、でも、次は自分がやる(シェフになる)かな、と考えていた時だったから。それで、「また別の場所に行ける、海外、台湾知らないけど」みたいな感じです。

    編集部――知らなくてもワクワクするんですね。

    田原――はい。新しいチャレンジをすることは好きです。とくに、違う場所、自分のことを誰も知らないところに行く時はワクワクします。イタリアの時もそうですけど、誰も助けてくれない状況に置かれるというのは、ワクワクするしかないですね。その場所で、一から人脈や、いろいろと積み上げていく。

    編集部――そして一年たちましたが、ふり返っていかがでしょうか?

    田原――ひとつ結果として見えていることは、ミシュランが4月に発表で、オープンから5カ月目だったんですけど、運よく間に合って入れました。正直、(時期的に調査員が)食べに来てくれるかなというのもあったのですが、何回か来てくれていたみたいで、オープンからしばらくして名刺を持っていらしたんです。その時、「シェフ、コックコートのサイズはなんですか?」って聞かれて。それで、よし、表彰台(星)確定だと思って、「あ、Mです」って。

    編集部――しれっと(笑)。

    田原――それでも、4月まで不安に過ごしましたけど。「ほんとに入ってるのかな~……」って。

    でも、一番よかったのは別の部分です。メニューは2か月に1回くらいの頻度で変えているんですけど、ずっと「お客さんこれ好きかな」というのを考えながら作ってるんですよ。「自分がこれを作りたい」というより。僕、台湾のことを知らないで来ているし、最初に台湾の人の味の好みとかを聞いてはいたんですけど、定期的にメニューを変えるチャンスがあるんだったら、お客さんはどんな味が好きなのか毎回テストをしていこうと思っていたんです。今回一年たちましたけど、それでだいたい好きな味とか、反応がいいものとかがわかってきたので、次はそのわかったことを織り交ぜながらやっていこうと思っています。

    それとこの一年間で、「今回のメニュー、自分には合わなかった」とか、「私はあんまり好きじゃない」とか直接言ってくれるお客さんで、それでも次のメニューを食べに来てくれる人たちができ始めました。リピーターというお客さんですね。好きでも嫌いでも試しに来てくれる信頼ができたっていうことなんですよ。毎回雰囲気の違うものを作っているのもお客さんは気づき始めていると思うんですね。そういう信頼関係ができてきたのが僕は一番うれしいかな。

    編集部――雰囲気が違うものを作るのは、テストだからですか?

    田原――そうです。それに、変えたいというのがあるかもしれないです。何が、どんな味が出てくるかわからないほうが、飽きない、美味しいだけじゃなくて面白いと思ってもらえるのにもつながるとか。もちろん、どっちもが最高ですけど、今回はまらなくても次に期待してもらえる。だから2回連続は失敗できないというのはありますけど。僕はここでは外国人で、日本人の人を相手に作るのとも違うから、けっこう、細心の注意を払いながらやっています。

    編集部――日本人を相手にするのとは違うとは? 想定しているお客さんや、来てほしいお客さん像があったら教えてください。

    田原――来てくれるお客さんはだいたい、日本にも食べに行っている人とか、レストランを好きな一般の人です。フロリレージュに行ったことあるよとか、東京のあのレストランに行ったことあるよとかいう人も、けっこう多いんですよ。もちろん若い人たちも来るし、いろいろな層がいる中でそう人たちが多いんですけど。

    台湾の人には、日本に行かなくても日本人が作っている料理、いわゆる日本人っぽい料理が食べられるお店として認識してもらいたいんです。僕は台湾のシェフたちみたいな味は出せないけど、その逆は作れるので、そこしか狙っていません。RAWや他のレストランのほうが大好きっていうお客さんもたくさんいて、それで全然OKです。でも僕はどこにも合わせない。僕は、日本人が作っている感じだねってわかる料理しか作らない。

    編集部――たとえばどのようなお料理でしょうか?

    田原――日本のかば焼きをイメージしてうなぎの料理を作るとして、調理法や調味料や合わせるフレーバーはかば焼きとは変えたとしても、香ばしさがあって臭みのない感じとか、油脂の量とか、熱々の温度とかの本来のイメージをもって落とし込んでいく。でもそれって、食材の本当の味とか調理法を知っていないと変なものに仕上がる可能性があるじゃないですか? それを理解したうえで、きちんと説明がつくようにフレーバーや油脂の量を足し引きして、台湾やアジアが感じられて、かつ僕が知っている限り食べたことのない料理を作っていく、という感じです。日本じゃないからできることを、今まで食べたことのあるものを違う視点で、ここだからできることに置き換えてする。それを探しています。

    だから、日本から来るお客さんにも「(日本を感じるが)日本では食べられない感じの味だね」って思ってもらえれば。日本の人に来てもらった場合、「やっぱり台湾のお魚より、日本のお魚で作ったほうが美味しいね」って言われることもあるんですけど、それを技術的な部分でカバーして、できるだけ少なくしたい。日本からファインダイニングを食べにくるお客さんって、けっこう、「日本最高」イズムが強いから。

    編集部――美味しいですしね。

    田原――ええ。美味しいけど、わかるんですけど、「ああ、これだったら台湾に来たらまた来たいね」って思ってもらえるようなお店を(日本人を含め)外国人向けには作っているし、台湾の人にはさっき言ったようなマインドで。お客さんは、それを感じてくれる人たちに来てほしいなって考えてます。……台湾の人は、(レストランに通い慣れている人々は)日本の予約のとれないレストランとかにたくさん行っているし、美味しい和食やすし、料理をわかっていると思います。台湾に限らず、香港、シンガポールの人もみんなそうです。その点で、けっこう、お客さんの目線で考えて料理を作っていかないと、足をすくわれる。味を知っている人が来た時に怖いかなと。

     

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