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    Feature特集

    インタビュー logy 田原諒悟 Vol.3 台湾で得た視点(2/3)

    台北logy(ロジー)のシェフ田原さんに、シェフとして初めて過ごした一年と、今の料理観について伺いました。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    編集部――今日作っていただいたお料理についてお話を伺わせてください。茶碗蒸しと、イカのお料理の2品ですね。イカのお料理は、焼いたれんこん餅のようなものに、細く切った生のイカがのっていました。

    田原――これは、料理の中に日本っぽいものを入れているんですよ。それと炭水化物にあたるもの、今回は蓮根にタピオカを混ぜて餅みたいにしています。パンを提供しないのですが、その代わりになるようなものをパーツとして料理の中に入れて、食後感はあまり重くならないところを目指していて、今回はそれが、蓮根で作ったお餅みたいなものです。それにイカを合わせて……。

    日本っぽいものって、この料理は柚子の香りとかも入れていますけど、僕、どちらかと言うとイカの切り方とかに日本っぽさを感じていて。以前、おすし屋さんの人に、「切れ味ってわかります?」って言われたんです。包丁が切れて味が変わることとか、切り方によって味が変わること。それをやっているのって、たぶん日本人しかいないです。日本では普通のことなんですけど。厚い皮を取って甘みを感じやすくなるようにしてから、今回はジュリエンヌ(細く切る)にしています。

    蓮根の餅とイカスミを合わせたのは、イタリア料理とかでイカスミのポレンタみたいなのがありますけど、そういうイメージで美味しい料理を作れないかなって。だけど日本っぽく落とし込みたいし、というところで、香りや酸味を入れたり。トマトはちょっと使っていますけど(ドライトマト)、イカスミのソースには入れていないです。柚子の果汁とかを入れています。

    編集部――それで酸っぱいんですね。

    田原――はい。だけど、単にすっきりした味にはしないようにしています。マヨネーズみたいな味、好きな人が多いので。

    編集部――酸味と油ですか?

    田原――ええ。あっさりしすぎたら、自分的には好きだけど、他の人は好きじゃないな、とかも意識しています。そういうところにたぶん、イタリアンにいたけどフレンチで得たものとかが出てる。このソース、クリームとかバターが結構入ってるんですよ。絶対使ってなかったです。昔の僕だったら。

    編集部――もっとストレートな味だったということでしょうか?

    田原――はい。それに、そもそもこの料理になっていないと思いますけど。

    編集部――ミョウガも入っていましたか?

    田原――ミョウガのピクルスです。総合的に日本っぽいっていうのが、今回の料理かな……。コースにひとつはそういう料理を入れているんです。「あなたどこから来たの」みたいなのがわかる料理。「台湾の人は作らない(台湾にいる日本人だから作る)よね」という料理が、こういう料理なんじゃないかな。

    編集部――もう1品は茶碗蒸しですね。市場でもお話を伺いましたが、もう少し詳しく教えていただけますか?

    田原――茶碗蒸しはオープンから作り続けている料理です。まず見た目に、配色。赤、緑、黄色、黒い器。最初作った時に、もう少しすっきりさせたほうがいいかなと思ったんですけど、この色彩が台湾っぽいかな、ありかなと思って、そのまま変えずにいきました。

    構成は、フランス料理のコンソメ、日本の茶碗蒸し、セロリアックとラベッジの葉のアイス。セロリアックはフランス寄りの素材ですけど昆布で炊いていて、ラベッジは根っこと葉っぱのドライが台湾で漢方に使われているんです。野生のラベッジを台湾寄りのだしと合わせると、けっこう漢方っぽい香りに感じる。だしは、今回はビーフコンソメにドライのイカで香りと味を出しています。これがけっこう、台湾の味のカギになっているところです。

    日本では動物の骨でとるスープはないじゃないですか? 韓国ではたぶん、ビーフベース。ここ(台湾)独特の感じって、肉ベースの動物の骨のだしに、魚介を合わせてスープをとるところ。本来はイカと豚で作るらしいんですけど、それをコンソメに置き換えて。日本らしかったり台湾らしかったり、フランスっぽいとか、だけど、どこの国でもない料理。それに、フロリレージュで重きを置いている温度感。距離的、時間的に制約があるとアイスが溶けたりスープが冷たくなったり茶碗蒸しがぬるくなったりしますが、この(カウンターの)距離感だからできる料理。というので、一番、説明がつきやすいというか、コンセプトをしっかり入れられているから続けています。あと、僕のアイデンティティが入っている。

    編集部――アイデンティティとは?

    田原――日本人であること、フロリレージュで経験したこと、ヨーロッパで経験したこと、トータルで作り込んだ料理。logyと言うよりも、僕の経験がブラッシュアップされていると言ったほうがいいかもしれないです。なので、新しいシグニチャーを作りたいとずっと考えているんですよ。お店としての。

     

    編集部――シグニチャーディッシュの条件として、田原さんはどの地域でも手に入りやすい材料を使うともお話しされていました。その他に、たとえば茶碗蒸しのお料理で、お客さんの視点からの味の構成、感じ方はどのように考えていますか?

    田原――誰が食べても美味しいと思うようなうまみ。あと、アイスクリームはかなり苦味があるんですが、「苦い」が美味しいのは、アジアっぽさのひとつかなと思っていて。日本も、台湾もゴーヤとか食べるから、苦みの美味しさがわかる地域じゃないですか。それも含めて、苦いものをのせたかったんです。でも、苦いだけだと苦しいから、甘い根セロリを合わせて。お客さんには苦いって言われることもあるけど、あの苦さがいいねって言われることもあります。アイスだけだったら食べられないけど、全体を一緒に食べたら美味しいとか。構成だけ聞いたらすごくシンプルで簡単ですけど、味や香りはとても微妙なバランスで成り立っていて、お客さんからの反応も一番いいかな。台湾の人含め、海外からのお客さんも。

    編集部――外国のお客さんにこうした料理を通して伝えたいことはありますか?

     

    「Vol.3 台湾で得た視点(3/3)」に続きます