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    Feature特集

    インタビュー logy 田原諒悟 Vol.3 台湾で得た視点(3/3)

    台北logy(ロジー)のシェフ田原さんに、シェフとして初めて過ごした一年と、今の料理観について伺いました。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    田原――ありますよ。とくに強く思っているのが、僕はイタリアに行って悲しいこともうれしいこともあったり、友達もできたりしたけど、彼らは日本がどこにあるのかもたぶん知らなかった。「日本」は有名だけど、じゃあどこにあるのかって言われると、「えっ、台湾とか?」という感じです。もうちょっと東側のほうのことを、ヨーロッパとかアメリカとかの人たちに、アジアってこんなんだよって知ってもらいたいし、僕たちは僕たちで最高の文化を持っているっていうのを伝えたい。……そのためにも、アジアやワールド50に入ったり、ミシュランで星をとるのは、重要な課題だということです。有名人になりたいわけじゃない。ただ、知名度があるほうが人は耳を貸してくれるのが現実だと思います。

     

    編集部――もし教えていただけたらなのですが、フロリレージュという名前がある中で、台湾でシェフをすることについてどう考えていらっしゃいますか?

    田原――フロリレージュの姉妹店という打ち出し方をされるのは、オープン前からずっと言われていて、その通りなので、僕は何とも思っていないです。フロリレージュで働いていた時の考え方があるから今につながっていると思うので、フロリレージュっぽいねって言われてもオッケーですし……何て言ったらいいか……それに対して「抵抗があるか」ということではないですよね? その質問は。

    編集部――ではないです。

    田原――じゃあ、僕は正直、使える名前は使いたいという感じです。でも、自分たちのために。自分のためにも。変に意固地になって、自分の力だけでいきたいんだ、とかいうのも頭悪いなと思うし……。せっかく使わせてもらえる承諾を得ているから、使うべき。それをもとに、新しい関係を作っていったり、知らないところに入っていったり、というひとつの武器として僕は持っている感じです。

    でもそれは、言われたら答えますけど、僕から大っぴらに見せることはしません。logyのPRもそうです。去年、最初はまずお店のアカウントを作ってから、logy始動します、という感じでした。食材を探しに行っていることや、予約開始といった内容を自分で上げていって。でも、噂が流れていたから知っている人は知っていて、ありがたいことに満席になりましたけど、そこはフロリレージュがあってのことです。すごいな、すごい力だなって思いました。

    で、これ、ほんとうにプレッシャー大きかったですよ。プレッシャーのほうが多い、と言うか、押し潰されそうですよね。でもそれは、3年間ずっと考えていたから。フロリレージュをやめて次に行ったら、どこに行ったとしても「あのフロリレージュのスーシェフだった人」って言われるんだろうなって思いながらずっと働いていたので。そう言われても恥ずかしくないようにしようと思ったし、そういう練習的な感じでイベントもやらせてもらっていたし、その時にフロリレージュのコピーじゃない料理も作れるなって自分で思っていたし。もちろん、美味しいと思った味をとり入れたりはしますけど、マネをしている感覚はない。それでも、周りの期待と不安は、たぶん他の人が想像できないくらいありました。「大丈夫」ってみんなに言ってましたけど、大丈夫なわけないですよ……死にそうです(苦笑)。

    編集部――それに、準備が大変だったと伺いました。現地で必要なものの手配をほぼご自身でされたと。

    田原――それは、経験しておいたほうがいいことです。オープンの苦労を何も知らないのと、その部分だけでも知っているのでは全然違いますから。でも、怖かったです、ほんとうに。オープン2週間前でも全然メニューが決まってなかったですからね。考えすぎて。何が正解なんだろう、どうあるべきなんだろうって。お店としてのコンセプトは決まっているけど、どんなふうにスタートをきればいいのかって。

    一発目が絶対重要で、最初に理解してもらえる美味しいものを作らないと継続して予約をとってもらえないと思っていたから、とにかく絶対成功するぞっていう気持ちではいました。思っていただけですけど……。川手シェフに相談もしてないです。味見もしてもらってなかったです。

    編集部――じゃあ、今年の1月に川手シェフがいらしていましたが、もしかしてその時に初めてお店のお料理を食べたのですか?

    田原――初めてです。お店に来たのも初めてでした。

    編集部――緊張しましたか?

    田原――いえ、緊張しないです。川手シェフに料理を作るのはそんなに、緊張しないって言ったらあれですが……なんか、そのへんは、変な感じなんですよね。

    編集部――そうなんですか。そうして一年がたって、次の一年が始まりますね。最後に、二年目に考えていることを伺えますか?

    田原――今までは、一年目のレストランで一年目のスタッフもいるわけなので、僕が先頭に立って料理を作っていく状態が続いてきていました。それはこれからもそうなんですけど、火を使う部分、料理をするところで、少しずつですけど、スタッフにシェアしていきたいと思っています。

    編集部――先ほどお肉を焼きながらおっしゃっていましたね。スタッフさんに技術的なところでシェアしていくのは、たとえばお肉の仕上げの部分でしょうか。

    田原――最後にアロゼしたりオーブンに入れたりやすませたりする時間は、人によって少しずつ違いますけど、微妙な差はあったとしてもそんなに大差はないと思っていて。

    編集部――仕上げの手前までも、加熱ややすませる作業の一部をウォーターバスに置き換えられないかとお話しされていましたね。アナログとデジタルを組み合わせると。

    田原――その方法が合ってるかどうかもわからないけど、試してみたいです。大きく変えるのではなく少しずつ、他の人もできる方法にシフトしたいと思っています。

    それと、レシピをシェアするのではなくて、経験としてシェアしていくのが重要かなと思っています。これ、僕、本当に思っているんですけど、彼らがlogyをやめた後にそれぞれ散っていくわけじゃないですか。その時に、経験をシェアしていたら、それってどんどんその後にもつながっていくと信じているので。

    たとえばさっき言ったように、熱いお皿を使うのは、僕、ほんとうに徹底していて、1分前とかそれより前にお皿を出したら怒るので。でもそれに慣れてきたら、気持ち悪くなるんです。ぬるいお皿を使うのが。彼らが次のお店に行った時に、(ぬるい皿を使っていたら)絶対気持ち悪いって感じるはずなんです。他にはたとえば、お客さんのことを考えて仕事をすること。彼らが別のお店で働いた時に、もしお客さんのことを考えていないスタッフを見たら、気持ち悪いと思うはずなんです。この感覚が一番重要で、これが次の人につながっていくと、きっといいレストランができてくるし、いい料理もできてくる。それを期待して、徹底してたたき込んでいる最中です。

    そういう、料理じゃなくて、レシピじゃなくて、一番大事なところ。その感覚をここで作ってくれたら僕は、やっと来た意味があるかなあ。料理を作るだけって、ほんとうに、文化なんか変えられないですから。料理のシーンも。自分の店は繁盛するかもしれないけど、周りに何の影響もないじゃないですか。でもスタッフの人たちは、次のお店に行くから。

    編集部――動くのは人ですか。

    田原――はい。レシピが渡っていってもほんとうに何も変わらないけど、その人たちがいいなと思ったこととかが周りに伝染していくと、たぶん、この国のレストランシーンもちょっとずつ変わっていくし、日本もたぶん、そうだったはず。そういうきっかけにはなるはずなんです。と、信じています。僕は。

    ……あと、最近ちょっとずつ、味のイメージが頭の中でついて、それを料理にすることができ始めて。僕、シェフ一年目なんで。そういうところも勉強して。

    編集部――ああ、シェフになられて、メニュー作りが始まったのですね?

    田原――はい。誰でもそうだと思いますけど、(シェフになる前は)イベントとか、何かの機会がないと自分の料理を生み出すということをしないから。僕はフロリレージュの時が初めてくらいの感じで。

    新しいものを作る時に、イメージしていたものとできたものの味が違う経験が何十回も何百回もあるから、それが嫌で休みの日に何回も何回もテストして。納得いくまで作り直して食べて、それでも大丈夫かなと思いながら新しいメニューに変えて、お客さんの反応がよかったらやっとぎりぎり安心できるくらいで。自分でもまだ、ほんとうに大丈夫かなって思っているけど……っていうのを繰り返しているんです。今それが、なんとなく、味のイメージがつけられるようになってきて。外れる時もあるけど、できてきてるかな……。

    編集部――仕事が変わったんですね。

    田原――はい。でも、そうだと思っていました。こういう仕事になると思っていました。

    編集部――これからもどんどん変わりそうですね。また取材に伺わせてください。

     

    Fin.

    田原シェフ、誠にありがとうございました。

     

    logy

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