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    Feature特集

    インタビュー 小林寛司 小林シェフの修業時代 2

    小林シェフが料理の修業を始めた頃の思い出を伺います。

    小林――これはいつも本の取材などで話すのですが、イタリアでは、リストランテ……高級星付きレストランばかりまわっていたんですよ。でも、ちょっと素朴なところも行ってみようと思って、郷土料理の店に入ったんです。暖炉で肉を焼いて、近くでとれるラディッキオのサラダにチーズをふりかけて、といった料理を出す店でした。そこのデザートが、シフォンケーキみたいなのに、アングレーズをかけるんですよ。

    アングレーズを作るときって、ふつう、バニラと牛乳を沸かして、砂糖と卵と合わせますよね。でもそこでは入れてなかったから、「バニラ入れないの?」って聞いたら、「ここにはバニラなんてない」って。

    「イタリア料理はクッチーナ・カンパニズモ(町にひとつは教会があり、その鐘の音が聞こえる範囲に住む人々が共有している料理/郷土料理)って言って、そこにないものは使わないんだ。うちにはレモンがなってるでしょ。だから、レモンの皮を入れたらそれで十分なんだ」って。

    今、僕はバニラとレモンを使うんですけど、それまではアングレーズって言ったらバニラ棒が必ず入るもんだって思っていて。

    • イタリアの教会。町それぞれで形が違う。

    • アイーダに植えてあるレモン。イタリアの品種で日本で一般に見るものよりも大きい。

    編集部――日本には海外から、「そういうもの」として入ってきてますものね。

    小林――そう。それでイタリアに行ったら、「必要ない」って。「あっ。へえ……」って思って。

    編集部――それ、今のアイーダさんっぽいです。

    小林――そう。そこの影響は大きいです。ないものは使わない。そのほかにも、初めてイタリアに行ったとき、しぼりたてのオイルの時期が、秋に来るんですよね。今でこそ知ってますけど、その頃はノヴェッロ(ヌーヴォー)があるのなんて、ワインくらいかと思っていて。「これ」って言われて、パン・トスカーナ、味のないパンに、塩と、そのしぼりたてのオイルをかけて食べたときの衝撃は激しかったですね。「なんじゃこりゃ」みたいな。

    編集部――うまいっていうことですか?

    小林――うまいというか……辛いというか、「オリーブオイルってこんななんや」って。で、そこからこなれていくというか、青いバナナみたいな感じから、こう、変わっていく。しぼるタイミングもあるし、瓶に詰めてからも、時間がたつと変わっていくっていうのを知りました。

    編集部――素材のたどる時間ですか。それも今のアイーダさんに通じますね。そうした経験は、いくつになってもできるんでしょうけど、やはり若いうちのほうが残るのかもしれませんね。

    小林――うん。若いうちのことのほうが覚えてます。

     

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