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    Serial連載

    手島 純也連載 フランス古典料理

    Vol.2  フランス三大料理人の時代 後編(2/3)

    三大料理人の時代の料理から、エクルビスのグラタン、マスのムースのお話です。

    PHOTO: MASAKO KAKIZAKI

    編集部――素材の面では、たとえば本日のお料理ですと、エクルビスやマスがその土地でとれるもの、というところがありますね。

    手島――まずそれが一番ですよね。地方のシェフたちは、今も昔も土地に対しての想いがすごく強い。

    その後のヌーヴェルキュイジーヌの時代で、ひとつの弊害としてよく言われることは、たとえば南仏で食べて、その後アルザスに行っても、同じような料理が出てくるということ。交通事情がよくなって、情報伝達のスピードも上がって、誰が何を作っているという情報が、今よりは遅いですがすぐに伝わる。そうなってくると、その地方の特性が失われていると、辻さんの本にも書いてあったと思います。その当時ですでに。80年代の話ですよね。今はそれがさらに加速して、ボタンひとつで世界中の料理が見られる。それはすごいことですが、実際にその場所に行って食べなくても料理の見た目だけは真似ができてしまうということでもあります。

    編集部――今、日本も含めて、世界中で古来からのその土地の料理や素材を再評価するという動きになっていますが。

    手島――それはフランス料理に伝統的にあることですね。それに、フランスの地方は政治性も強いので、たとえばアルザスのことは、ドイツとフランスの歴史がわからないとわからない。地中海沿岸はどうだったのか、他地域との交流も考えないと理解できない。地方料理は、「そこにあるもの」を使ってその土地で作られてきたもの。それと全く別のところで進化してきたのが、いわゆるガストロノミーと呼ばれる宮廷料理です。『ギッド・キュリネール』には、地方料理はほとんどのっていません。

    編集部――手島シェフはどちらもお好きなのですか?

    手島――はい。どちらも好きですが、あえて選ぶなら、僕はそれを現代的ガストロノミーに仕上げた料理が好きです。今は、地方料理とガストロノミーが重なっていますよね。エクルビスのグラタンはあの地方(リヨン)の料理です。でも、ああいう形で庶民が食べるかと言ったら、食べないと思います。ガストロノミーです。

    編集部――フランスの地方の著名シェフには、少し時代は下りますが、マルク・ヴェラやオリヴィエ・ロランジュなどもいますね。彼らの料理は、地方料理でしょうか?

    手島――彼らの料理は地方料理ではないと思います。マルク・ヴェラ、オリヴィエ・ロランジェ、ミシェル・ブラスは、80~90年代のフランス料理の中で特殊な立ち位置にいる方々です。それまでフランス料理のメインストリームは、有名店で修業を積んだシェフの作る王道のフランス料理でした。シェフで言えば、たとえばジョエル・ロブションやポール・ボキューズ。ですが、マルク・ヴェラらは、(地元の)どこかの店で特段の修業をしたわけではなく、独自の料理を作るシェフ達です。それぞれの店に料理ができる技術者はいたとしても、それを考えるベースになっているオーナーシェフたちは、独学が故に伝統的なフランス料理の概念に支配されていないから独自の料理ができた。子どものころから食べていたものに郷愁があるから、それが自然に料理に入ってくる。彼らの考えが、厨房で働いている料理人などの高い技術力で再生されて、独自のものを生んでいったということだと、僕は思います。

    当時のメインストリームに対してマイナー側ですが、ミシュランは彼らに三つ星を与えました。そこには、アヴァンギャルドなものでもよいものは評価するというフランスの国民的な資質もあると思いますし、それがフランス料理の幅の広さ、多様性と言うことだと思います。彼らが認められたのはエポックであり、今でも料理界に影響を与え続けていますよね。

    つづきます