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    Serial連載

    手島 純也連載 フランス古典料理

    Vol.2  フランス三大料理人の時代 後編(3/3)

    三大料理人の時代の料理から、エクルビスのグラタン、マスのムースのお話です。

    PHOTO: MASAKO KAKIZAKI

    編集部――3品目はマスのムースを作っていただきました。ソースはペリグーで、参考にされたのは、辻静雄さんの本ですね。

    編集部――マスのムースはピラミッドのスペシャリテのひとつでもあったのでしょうか?

    手島――そうです。ムースは、マスの量をだいぶ増やしましたが、現代的な美味しさにもっていくことが難しかったです。古典料理を再生する場合、(作り続けられている料理でないと)これが正しいという確認のしようがないです……。ご本人が生きていらっしゃらないし、当時を知っている人も少なくなってしまっています。

    編集部――ソースは、トリュフを炒めて、かなりしっかりと煮ていました。

    手島――古典を見ると、クラシックなソース・ペリグーは炒めることがあって、今回もそう書いてあったので踏襲しました。上質なトリュフだと、香り自体は薄まりますが、コクみたいなものがソースに移ります。香りのために、最後にトリュフを加えるのがベストだと思います。でも、僕はふだんは、トリュフを炒めることは、まずしません。やってみると、どうしても(香り、風味が)どこかに行ってしまう。たぶん、トリュフの質が違うからだと思います。フランスの最高品質のトリュフだとできると思いますけど。

    手島――ソース・ペリグーも作る人の考えによって、また、合わせるものによってもバラバラですからね。たとえばフォワグラや肉などと合わせるソースを今日のムースみたいな料理に合わせても、ソースが圧倒的に勝ってしまいます。ソースはうまいけど、ムースは生きない、ということになってしまう。今日みたいな料理であれば、ソース単体ではそこまで強くないけど、合わせて食べたら美味しいなというくらいの、うっすらとしたうまみ。テクスチャーもサラサラした感じで。あのくらいのほうが、僕は、イメージとしてはいいなと思います。

    編集部――エクルビスのソースは、クリームなど三種類を合わせていましたね。

    手島――それは、ルセットに書いてないですが、僕が「グラタンならこれが一番美味しいだろう」と思ってやっていることです。ベースの(エクルビスの)ソースをしっかりと煮詰めて、オランデーズを合わせて、泡立てたクリームでクレメする。後から気泡を入れることでソースがフワーッとするわけです。クリームだけでなくサバイヨンを合わせるのは、コクやふわふわとした感じだけでなく、さらに複雑みが欲しいからです。

    手島――サバイヨンは毎回作らなければいけなくて大変ですが、でもそういうことが、現代フランス料理でクラシックをやるときに大切だと思います。美味しいと思うことに手を抜いてはいけない。まあ、これはどの料理でも一緒ですね。

    あとから生まれてくる技術論や方法論とか、科学的な根拠とか、いろいろな選択肢がある中で、今やるならこれがベストという方法を、今の人は選択すればいい。それが現代的な手のかけ方。そうやって重ねることで得られる美味しさが、当初になかった美味しさです。それを、昔はこうだったということを知らずにやるより、知ってやったほうがいいということが、古典料理を知る意義だと思います。

    編集部――引き出しですね。

    手島――そうです。単にフェルナン・ポワンやアレクサンドル・デュメーヌが偉い人だから勉強しなければいけないわけではない。これを知っておくと、今の料理ももっと美味しくなるんじゃないかというひとつのメッセージです。あとは、今の料理しか知らない若い料理人と食べ手に、フランス料理の美味しさの起源を伝えること、それは僕のライフワークでもあります。うまみにうまみを重ねて作っていくというのがフランス料理の美味しさですが、今の料理方法論は、たとえば発酵など、これまでフランス料理ではあまり注目されてこなかった方法をとり入れることが主流になっているので。それは新しい技術に対して貪欲であるということで、決して否定はしませんが。

    僕は偉大な先人の遺産で仕事をさせていただいていて、それを心底美味しいと思っているし、この仕事をすることに誇りをもっています。自分のまだまだゆるいところ、技術的に低いところを磨いて伝えていければ、それをさらに勉強した子たちが、それを越えていく可能性に寄与することはできるかもしれない。フランス料理の偉大な系譜の、点になれたらいいなと、僕は思っています。

     

    Fin. 手島シェフ、誠にありがとうございました。