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    Serial連載

    連載インタビュー料理人と素材

    Vol.1  浅草オマージュ 荒井昇シェフ vol.1

    素材と料理について、シェフにお話を伺う連載です。

    編集部――荒井シェフ、本日は撮影ありがとうございました。素材のお話を中心に、いろいろと伺えればと思います。まず、1品目のフルーツトマトですが、こちらはどのようなお料理でしょうか?

    荒井――シーズンのトマトと、本当にぎりぎりのトリュフと、という組み合わせです。高知のリサトマトというフルーツトマトを使っていて、わりとしっかりとした果肉で、酸味も甘みもある感じのトマトですね。

    毎年1月くらいから5月くらいまでやっている料理です。イメージとしては、イタリア料理のカプレーゼの組み合わせを再構築したような感じで、塩をして水分を抜いたフルーツトマトのタルタルにモッツァレラチーズのエスプーマ、上に刻んだトリュフと薄い飴のシートをのせています。

    編集部――バジルは入っていないのですか?

    荒井――ええ、入っていません。その代わりというわけではないですが、コリアンダーが入っています。

    編集部――今回、素材というテーマでどうしてトマトを選んだのでしょうか。

    荒井――トマトは、すごく好きな食材です。物心ついたときから好きですね。それに、僕はフランスの中でも南フランスに憧れた時期があり働いたこともあるのですが、そこもトマトを身近に使う土地であるのと、僕、少しだけイタリア料理もやったことがあって、今回の料理はその経験に結びついている部分があるのかなと。

    編集部――荒井シェフがイタリア料理をされていたって、初めて伺いました。

    荒井――ああ、オープンになっていないんです。

    編集部――もしかして、あまり書かないほうがよいでしょうか?

    荒井――いえいえ、大丈夫です(笑)。

    編集部――ありがとうございます。あの、それはいつごろのことでしょうか?

    荒井――二十歳の頃ですね。僕、そのころ2年間だけ青森に行っていたんです。

     

    イタリア料理の印象を変えた6カ月間

    編集部――青森ですか?

    荒井――ええ。出稼ぎのような感じというか。就職して最初のお店で働いているときに、たまたま、十和田湖のほうで新しくリゾートホテルを開業するという方が研修に来ていて、そのご縁で。「東京でずっと暮らしていたのなら地方に来てみない?」と声をかけていただいて。ちょうど僕がこの世界に入った頃は、バブルがはじけて、イタリア料理の人気が高まっていた時代だったもので、都内で就職先を探してもイタリア料理店が多かったんですよね。

    編集部――青森のお店は、フランス料理ですか?

    荒井――そうです。それで、1月から3月、青森で雪が積もる間は東京に戻って来ていたのですが、そのときにイタリア料理店でアルバイトをしていたんです。カノビアーノをされている植竹シェフのところです。当時はビゴロッソというお店ですね。そこで3カ月だけ、2シーズン、やらせてもらいました。

    編集部――イタリア料理をやってみてどうでしたか?

    荒井――僕、ちょっとその頃って、イタリア料理に対して軽く見ていた部分があったのですが、植竹さんのところでやらせていただいたときに、イタリア料理の魅力というか、食わず嫌いのような感じでやったこともないのに否定していたけれど、実際に働いたことで見えた部分があって印象が変わったというか。一気にイタリア料理が好きになったし、すごく面白いと感じました。

    編集部――素材の使い方も違うのではないですか?

    荒井――ええ。それでまた、植竹シェフは本当に食材にこだわって深く追求する方だったので。あの当時で、(北海道)焼尻の羊とか、国産のフレッシュの羊を使っていたりして。ほかにはまだレカンの十時シェフしか使っていない頃だったんじゃないかと思うのですが。

    編集部――そこでいろいろな素材に触れることもあったのですね。

    ……すみません、話をそらしてしまいました。トマトの話に戻ります。今回、トマトはタルタルにしていますが、このように仕立てた背景を伺わせていただけますか?

     

    南フランスで出会った野菜料理

    荒井――野菜の料理を作りたいという気持ちがあったんです。南フランスで働いていたお店が野菜料理を出していたのですが、野菜だけで一品になるというのが、その当時の自分にとってすごく新鮮で魅力的で。

    自分もそういう料理を作りたいと考えていたところで、たまたま高知のフルーツトマトに出会って。この素材を一番わかりやすく料理するにはと考えてイメージが浮かんだのが、カプレーゼの組み合わせでした。トータルで半年間だけでしたけど、イタリア料理をやっていたという自分の履歴とリンクしたんです。

    それで、カプレーゼを再構築したようなトマトの料理を作るところからスタートしたのですが、実はこの料理はその前に原形があって、チーズではなくフォワグラを入れていたんです。フォワグラとトマトをタルタルにして、飴をのせて出していたのですが……それはそれで美味しいんですけど……高級食材って、使い方によって品がなくなりやすいというか。

    編集部――主張が強い、ですか?

    荒井――そうですねえ……「本当に必要なのか?」といった……もうちょっと(料理を)スリムにしてもいいのかなと。フォワグラは確かに美味しいけど、使わずに、もっとトマトをストレートに出したいと考えたんです。

    じゃあ、その油脂の部分を何にしたらいいのかというところでカプレーゼに結びついて、モッツァレラチーズを組み合わせようと。エスプーマにして少し軽さを出して、トマトを主役に、というのが今回の料理になっています。

    編集部――トマトのタルタルはどのように作っていますか?

    荒井――湯むきをして、細かく刻んで、だいたい1%の塩をして、ザルにさらしをひいて一晩おきます。凝縮感と食感の出た果肉の部分を、エシャロット、ケッパー、パクチー、トリュフのオイル、トリュフのアッシェ(細かく刻む)と和えて、下に落ちた水分はミネラルウォーターで少しのばして試験管に入れて提供します。途中で飲んでいただくようにすすめるかたちですね。水でのばすのは、そのままでは塩味がきついためです。

    編集部――タルタルの材料について、トマトの味を引き立たせるために気をつかった部分はありますか?

    荒井――牛肉のタルタルに使われるであろう薬味をベースにしています。たぶん、このタルタルに使っている材料プラス、ケチャップとか、タバスコとか、リーペリンソースとかあると思うんですけど、トマトに適したものを残して、それらを省いていったという感じです。

    編集部――コリアンダーも入っていますね。

    荒井――コリアンダーを組み合わせるのも南フランスの思い出で、その時のシェフがフレッシュのコリアンダーを栽培していて、料理によく使っていたんです。それで、茎が余るので、茎と一緒にトマトをミキサーにかけたスープをよく作っていて。その美味しさを知っていたので、バジルではなくてコリアンダーを使おうというのが、感覚にありました。

     

    vol.2 に続きます