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    Serial連載

    連載インタビュー料理人と素材

    Vol.1  浅草オマージュ 荒井昇シェフ vol.3

    素材と料理について、シェフにお話を伺う連載です。

    編集部――そこでお客さんが、ハッと思ってくれればいいわけですね。

    荒井――そうです。そういう感度を持った人がいるのかどうか、あとはもう、お客さんの問題なわけで。それって、ある意味強気と言えば強気な感覚じゃないですか? だけど、そうしていかないと、自分自身は成長していかないだろうなという。

    世界基準で戦うとか、水準を上げていくには、そこを脱却して、大胆にやっていかないと。ある価格にするための料理ということとかではなくて、もっと、一個一個の食材に対して、どういう風に料理をしていくのか、アプローチしていくのかを考えることのほうが大事だと思って変えていったという感じですかね。それは、海外に食べに行く機会も増えていった中でも、影響を受けた部分があるかもしれないですね。

    編集部――いろいろな刺激を受けられて。素敵ですね。……あと、今日はもう1品、羊とホタルイカのお料理を作っていただきました。こちらのお話に移らせてください。

    編集部――羊は、どのようにお料理されていますか?

    荒井――部位はもも肉で、スジをきれいに取り除いて、バターをぬって、最初、フライパンで焼き色がつくように焼きます。焼き上がったら子羊のジュースを、タイムとローズマリーの枝でぬりながら照り焼きのように焼いていきます。

    編集部――オーブンですか?

    荒井――サラマンダーですね。ロゼになるように焼き上げて、やすませておきます。ホタルイカは、ゲソとクチバシと背骨を抜いて、ゲソと内臓を刻んで、ソラマメ、粒マスタード、松の実、エシャロット、トマトを刻んだものを混ぜてイカの頭に詰めなおしています。

    表面にフェンネルの葉のオイルとシブレットをふりかけて、丸く抜いたレタスを添えています。ソースは、サバ節がベースで、ガルムを入れて、葛で濃度をつけたものです。

    編集部――素材の組み合わせについて伺わせてください。

    荒井――魚介と肉の組み合わせが、もともとすごく好きな組み合わせです。フランスに行って最初に入ったお店がバスク料理屋さんなのですが、バスク料理は海の幸と山の幸を組み合わせた料理がとても豊富で、そのときにその美味しさに目覚めたというか。それを日本になぞらえたときに、日本も海に囲まれていて山があって、たとえば肉じゃがを作るにも、ベースで鰹だしを使っていたりというのが、一見、魚と肉の組み合わせって奇抜だけど、形状をかえるとけっこうよくある組み合わせだなと思っていて。それは気候風土や、その土地に根差したものと考えると、新鮮だけど歴史も深くて、不思議な感覚というんですかね。新しいけど、そこに伝統もある、といったところにすごく惹かれていて。古典料理でも海老と鶏の組み合わせなどがありますし、どこかでフランス料理をリスペクトしているような料理かなと思っています。

    だから、食材だけを見ると、日本っぽくて、斬新に感じる組み合わせかもしれないのですが、フランスの古典というか、テロワールを感じさせるような料理のコンセプトになっています。

    編集部――羊も国産のものですか?

    荒井――そうです。北海道の、足寄(あしょろ)の石田めん羊牧場さんの羊ですね。

    編集部――組み合わせの点で、季節感もあるでしょうか。

    荒井――はい。羊が春のイメージというのと、ホタルイカというので、季節を意識した感じになっていますね。今回の羊はホゲットという、ラムとマトンの間のもので、この時期、ぎりぎりサシが入ってきます。

    編集部――温かくなってくると脂が抜けていくんですね。

    荒井――腹回りがスリムになってくるんですよね。冬場はすごく厚く脂を蓄えて、身にまでサシが入ったりして、それが結構面白くて。1年を通して、毎月半頭使っているので、すごく、変化はわかります。季節で全然違いますね。

    編集部――仕入れるのはいつもホゲットなんですか?

    荒井――いえ、基本的にはおまかせです。ラムの時も、マトンのときもあります。自分のところではねかせられないので石田さんにお願いして、頃合いをみて送ってもらう感じです。あとは、僕のほうで感じたことをフィードバックして、という感じです。

    編集部――お店では、羊のほかにはどんなお肉を使われますか?

    荒井――ハトとか、牛、仔牛、鶏、豚、鴨……

    編集部――全般的にまんべんなくですね。

    荒井――そうですね。ただ、ジビエは最近あまり好きではないというか。

    編集部――どうしてですか?

    荒井――扱っているお店が増えているというのもありますし、けっこう、エネルギーの必要な料理だなと思っていて。カモ、シカは猟師さんを知っているということもあって使うのですが、それ以外は、外国のジビエはとらなくなりました。

    編集部――猟師さんとお知り合いなんですね。生産者さんとのつながりが重要視されてきているかなという気がするのですが、そのあたりは荒井シェフはどのようにお考えでしょうか。

     

    素材の足りないところを埋められるのが料理人

    荒井――どうなんだろう、そんなに正直こだわりがなくて、そこらへんは、僕、ゆるいかもしれないです(笑)。ご縁があって、いいなと思って使うのもそうですけど、その人となりがよかったら、そこまで質の高いのものでなくても全然使う、みたいな。そこのところって、料理人が埋めてあげればいいかなって思っていて。

    料理人はそれができるところで、むしろそこを埋めるのが僕らの仕事だと思っているので。情熱をもってやっている人のものは使いたいと思うじゃないですか。それは多分、食べ手の人もそうだと思うんですけど。ちゃんとやりとりのできる人と普通につきあいたいというか。「この人のこれ」みたいなのはないですね……もちろんそういう方もいますけれど。ご縁があってずっと付き合いの深い方は大切にしたいと思っているので。そんなにいろんなことをたくさん大切にできないじゃないですか? 「目が届く範囲のものを大切にするか」みたいな感じです(笑)。

    編集部――(笑)お肉を料理する際に気を配っていることを教えてください。

    荒井――たとえば豚を例にとると、国産の豚って、そんなにきまりがないと思うのですが、ブランド豚もたくさんありますし、それがスペシャルなものかどういうものかは別に問題ではなくて、重要なのは、じゃあ、その豚の魅力をどういうふうに引き出すのか。国産の豚は、どうしても水分が多いので、塩をして、水分を抜いてあげてというように、どんな豚であれちゃんとアプローチをして、提供していくということが僕にとっては大事なことです。どの食材に対しても、基本的にはそのアプローチをして、どういう料理に完成させていくかだけの話だと思っていて。素材自体がスペシャルかスペシャルじゃないかというのは、僕の中で意味をなさないことという感じですかね。

    編集部――そのお話の流れで、本日のホゲットとホタルイカのお料理についてもう少し伺えますか?

    荒井――はい、常に、あまり人が経験したことがない側面を出せたらなあという気持ちがあって、今回の羊とホタルイカの料理も、自分の引き出しというか、頭を開いて、その中のパーツが組み合わさってできています。羊の新たな魅力、ホタルイカと一緒に食べることで引き出されるうまみだったり、サバ節とガルムのうまみだったり、徹底的なうまみとの組み合わせなんですよね。

    その辺の経験って、なかなかない、自分の個性につながっていく部分なんじゃないかなと思っています。

    編集部――なかなかないというと?

    荒井――まず、ホタルイカと羊という料理自体をやっている店がないんじゃないかなと(笑)。

    編集部――そうですね。今日初めて聞きました(笑)、

    荒井――それで、そこにだしを合わせるといった。お客さんには、オマージュというお店に食べに来ていただくわけじゃないですか。じゃあ、うちは何を提供する店なのか。羊ひとつとってもそうですけど、お客さんは、羊の何を見せてくれるのかなあと期待をもって来てくれるわけですよね。その期待に応えるために、たぶんどこのお店もそうだと思うのですが、いろんな引き出しをあけて、それを組み合わせてやっていく。

    今回の場合は、バスクだったり、自分の過去のストーリーですよね。あとはうまみというのが組み合わさって、この料理になっているというところですね。

    編集部――ガルムを入れたのはどうしてなのでしょうか?

    荒井――うまみをぐんと、もうひと押し入れるというか、サバ節のだしだけだと、さらりと流れてしまう部分があるので。羊の美味しさとイカのうまみと組み合わせるには、ソースにもう一歩踏み込んだうまみを入れたかったので、ガルムを少し入れました。

    編集部――羊以外は魚介攻めをしている。

    荒井――(笑)そうですね。徹底的に。あと、ソースを透明にすることで、お皿の印象をクリアにしたかったというのはありますね。

    編集部――とても春らしくてきれいです。だけど、食べるとうまみが重なった強さというギャップがあるんですね。

     

    Fin.

    荒井シェフ、誠にありがとうございました。

     

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