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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.5  2016年9月 アジアのシェフとの交流 (1/3)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフ川手寛康さんに、国内外でのご自身の活動について、編集部が伺ったお話を中心にお届けする連載です。

    台湾、韓国、シンガポール、フィリピンなど、アジアのさまざまな国で精力的にコラボレーションイベントを行った2016年。そのひとつ、韓国のレストラン「Mingles(ミングルス)」とのイベントのお話を中心に伺いました。

    イベントをサポートする姿勢

    ――先日は韓国のレストラン「ミングルス」とコラボレーションをされたと伺いました。いかがでしたか?

    熱量がすごいなと思いました。コラボレーションひとつにしても、レストラン1軒でやっているんじゃないんだ、ということを感じます。バックアップするメンバーがいて、今回の場合も、雑誌やウェブの媒体がついていたり。

    韓国国内のシェフ同士はとても仲がいいですし、生産者ともすごくつながりあります。(こちらが)レストラン1軒とコラボレーションをすることで、文化も知ることができたり、1をやったら1返ってくるのではなくて、プラスアルファを得ることができる。また、そうなるようにとても気を配ってくれていると感じました。

    今回、撮影は全てそのメディアが行い、仕込みスペースの確保は調理学校が協力してくれました。僕たちの仕込みをサポートしてくれるし、食材提供も気を配ってくれて。

    ミングルスのシェフやスタッフはもちろん、みんなでひとつのコラボを盛り上げている感じがあります。そうなると、逆の立場になったときに、同じことを返そうと思ったら、ほとんど僕たちでやらなくてはいけなくなってくる……勉強になりました。こういうふうにやってあげたら喜んでもらえるんだろうなっていうのがわかりました。

    ――日本では今のところ考えられないですね?

    そうですね。人によってはたかがコラボかもしれないですが、でも、されどコラボだって、彼らはすごく考えるんですよ。これからのターニングポイントになると言っていました。ひとつひとつを重要なことだととらえて、適当にせず、しっかりとやっていく。それは、国柄もあるかもしれません。僕にとってはすごくよかったです。

    ――ミングルスのシェフが、ほかの方々に声をかけているのですか?

    メディアがリードしていろいろと巻き込んでいっている部分も多いのかもしれませんね。滞在中、韓国の食べ物屋さんにも連れて行ってもらったのですが、それも同行してくれました。もちろんシェフも行きますけど。みんなとても仲がよくて、家族みたいなんです。

    意見の交換で決まっていくメニュー

    ――今回、韓国に行かれたのは初めてだったのですか?

    いえ、三度目です。韓国にはいいお店がたくさんあり、シェフが僕の店にも食べに来てくれたりもしています。うちに来てくれるシェフは、ミングルスさんの紹介で、ということが多いですね。

    ――コラボレーションの際、食材はどうされたのでしょうか。

    基本ルールとして、現地の食材を使っています。今回は本当に持って行ったものが少なくて、せいぜい昆布、カツオ節くらいです。あとは(コラボレーションでフロリレージュがよく使用する)赤紫蘇がなくて。韓国は葉っぱの文化が根づいているので、あるかと思ってメニュー構成していたのですが、見つからないと聞いて持って行くことに。

    ――そうした打合せはどのようにされたのですか?

    ミングルスのシェフは、うちに研修に来ていました。成功させたいと言ってわざわざ来てくれて、丸々1日研修をして、そこで全部、メニューの打ち合わせをして。とても真面目です。

    ――ほかのお店の方とはどのようにされているのでしょう。

    たとえば、台湾のRAWの場合、僕と打合せをずっと続けていたのは、現場シェフのアランです。RAWの中心になっているのはアラン、ゾウ、アンドレ・チャンの3人。アンドレがいろいろ企画を考え、ゾウは料理を考える。アランは現場で実際に作り上げる。僕はその中ではアランと接する機会が多かったですね。彼らも真面目ですよ。本当に。僕たちが気持ちよく仕事ができるように、最大のバックアップをしてくれる。それがいい仕事につながるっていうのがわかっているレストラン。そういうのを見せつけられると、すごいなって思う。僕が到着した日は、まる1日、営業していないですよ。「試作の日」って言って、スタッフ全員出勤して、僕たちの仕込みをバックアップしてくれる日があって。

    それに、ミングルスやRAWは、シェフ、スタッフ同士がすごく言い合えるんですよ。仕込みにしても、「絶対こっちの方がいい。どう思う?」「そうでしょ? じゃあ変えていくよ」って。さんざん打ち合わせをしていても、当日また言い合って、コースをまとめていく。

    ――ちなみにそのようにして、どのようなお料理になったのでしょうか?

    ミングルスのときは、

    (以下 メニュー)

    □アミューズ 盛り合わせ
    ・ミングルスで定番の卵料理
    ・フロリレージュから、クロックムッシュのような料理(円柱状に焼いたブリオッシュ生地にチーズ入りベシャメルソースを入れ、ベーコンのクリーム、七味唐辛子)
    ・オミジャ(韓国で親しまれている、おもに水出し茶にする実)のゼリー
    ・炭酸入りのガスパチョ(フロリレージュ)に、「韓国おでん」の魚のすりみ(ミングルス)

    □前菜
    ・昆布締めしたヒラメのカルパッチョと、エゴマのスフレグラス
    ・牛肉のカルパッチョ(フロリレージュ)にワソン(韓国の食材市場で売られている植物)のピュレを添えて
    ・アユとフォワグラのルーラード(アユでフォワグラのテリーヌを巻き、内臓のソース、リゾットを添える。ミングルスでもともと出している、フォワグラをキムチで巻いた料理をイメージ)
    ・野菜のラビオリ(ミングルスのスペシャリテ。松茸、根菜などさまざまな野菜が入り、野菜のみでとったスープと)

    □魚
    サッと揚げた韓国のハモに、ハモのだしのフラン、水キムチ

    □肉
    韓国の飼育鴨のローストに、梅キムチのピュレのソース

    □デザート 2品
    ・胡瓜のソルベにジャンのようなものを添える(ミングルス)
    ・赤紫蘇をまとったチョコレートに、赤紫蘇のスープ(フロリレージュ。「日本でないと作れないチョコレート」をテーマに)

    (以上 メニュー)

    ……この料理って、単独では作れないじゃないですか。お客さんも、ミングルスさんも喜んでくれて、そういった部分では食材や文化の勉強にもなりますし、交流にもなります。でも、何を学んだかって、やっぱり、「姿勢」が一番勉強になります。日本人にはないものがある気がする。ここまでひとつ一つのものに対してしっかり取り組む姿勢は、なかなかないです。うちにわざわざ研修に来てくれるなんてそうないと思いますし、自分のお店の将来を左右すると考えているのは本当に感じますし、僕もそのつもりで臨みました。

     

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