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    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.3  川手寛康 スピーチ 「クリエイティブ」とは

    2018年5月、六本木で「Creative Conference(クリエイティブカンファレンス)」が行われました。料理人、酒ソムリエなど、飲食業界のさまざまな分野で活動する人物が登壇し、「これからの飲食のクリエイティブとは何か」をテーマにスピーチする会です。聴講者は同じく飲食関係者の人々で、主催はミクソロジストの南雲主于三さん。登壇者のひとりとして、南雲さんと数年前から交流のある、フロリレージュのシェフ川手寛康さんが参加しました。この記事は、当日の川手シェフのスピーチの記録です。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    川手シェフは、進行役の南雲さん、他の登壇者との打ち合わせ後、会場入りしました。

    開場時間が迫るとブラインドが閉められ、プロジェクターのテストが始まりました。登壇者はそれぞれ準備した写真や映像を使いながら、20分ほどのスピーチを行います。

    当日は事前に申し込みをしていた100人あまりの参加者が集まりました。最初に南雲さんの挨拶があり、その後登壇者が順にスピーチをします。

    川手シェフは4人目、最後の登壇でした。南雲さんからの紹介を受け、スピーチが始まります。

     

     

    (以下川手氏スピーチ)

    こんばんは、ご紹介いただきました川手寛康です。今回は、料理のテクニカルな部分についてお話をするのではなく、そもそもクリエイティブとは何なのかというところからスタートして、皆さんが何かクリエイトするときに、何かひとつのヒントになるとよいのでは、というところでお話をさせていただければと思います。よろしくお願い致します。

     

    まず、今言いました通り、「クリエイティブ」とは正直何なのか。インターネット検索によると、「創造性」「独創的な」「独創性」、そうしたものを最初に作り出すことが、クリエイティブという言葉とありました。僕もなんとなく頭の中で理解はしていました。でも、その「創造」とは、いったいどういうものなんだろう? それをより調べていくと、「既存の要素、素材の、独創的組み合わせ」なのではないかと思うようになりました。要は、道端に落ちているものを、どうやって自分なりに組み合わせていくのか。先ほどの登壇者の皆さんもお話されているのですが、ヒントは道端に落ちている。身近にあるものなんじゃないかと、僕も思います。それをいかに、独創性を持ち、自分なりに結び合わせていくか。それが、クリエイティブという言葉につながるのではないかと思っています。

    このとき肝になるのは、素材や既存の要素ではなく、独創的な組み合わせです。よく皆さんが耳にする「コンセプト」も、独創的組合せとイコールになるんじゃないかと思います。

    ただ、僕は、クリエイターたちにとってそのアイデアは、空から突然ふってくるものではないと考えています。どこから生まれるのかというと、それはやっぱり、自分が得てきたさまざまな経験からです。僕の場合は常日頃から、玉ネギ一つ、それを自分なりに料理できるかということのほうが、とても重要で、それによって、最短距離で「新しい」料理、「新しい」味を作り出すことができるんじゃないか、という考えです。

    世界中の色々なシェフと話す機会もあるのですが、天才と呼ばれているシェフであるほど、ひとつひとつ、重要なものを積み重ねている方が多いように思います。突然何か空から降ってきて料理を作っているシェフには、僕は正直、出会ったことがないです。

     

    ひとつずつ例を挙げながら話を進めていきたいと思います。(店内写真のスライドを示しながら)これは僕のお店なのですが、だいたい20席くらい入る、大きなカウンターがあります。フランス料理店はもともと、キッチンとサービスする場所が分かれた設計が主流になっています。レストランと呼ばれているものは、ほぼそれですね。カウンターキッチンのフランス料理店は、以前はあまりありませんでした。僕が今の場所に移転オープンしたのが3年半前ですが、その頃に、フランス料理店で、ある程度の価格帯をとりながらカウンターキッチンを採用しているお店は、少なくとも日本では、僕はあまり見たことがなかったです。

    よく、このカウンターキッチンを見て、「劇場型のキッチンを作ったね」と言われます。みんなに見てもらうために、こういうカウンターを作ったんでしょって。よく、そういう質問をいただきます。でも、これを作ったのは、結果的にカウンターになってしまったというだけなんです。実は、さきほど言った通りコンセプトも重要なのですが、それよりも、自分がやりたいこと。それが一番重要なんですよね。

    僕の店が、なぜこういったカウンターになっていったかと言うと、僕の料理のバックグラウンドまで、お客さんに知っていただきたかったんです。たとえば、生産者一人ひとりの気持ちだったり、どういう背景を通って僕がそういう料理を作っていったのか。そういったものを、お客さんに伝える必要性が今後あるんじゃないかと、僕は思って。(デンマークの)NOMAも少しずつやっていたのですが、料理人がサービスをするということは、今後すごく重要になってくるんじゃないかと思っていました。

    さらに、僕はやはり料理人なので、温かいものは温かく、冷たいものは冷たく(ということをとても気にします)。その料理人が、素早くサーブできる仕組み。あとは、今までは、サービスの方が店全体の流れを作っていたのですが、そうではなく、キッチンにいる全ての人間も、その流れを作れる、サービスできる環境を作りたかったんです。そうするとどうしても、導線の短い、こういうカウンターを作らざるをえなかったんです。これが、すごく斬新だね、クリエイティブだね、とよく言っていただくのですが、蓋をあけてみれば、なんてことはないんですよね。料理人がやりたいものを具現化した、たったそれだけのものなんです。

    ですので、クリエイティブというものは、意外と、難しいものではないんじゃないかと、僕は思います。結果的に新しく見えてしまうということはあると思うんですけど、この会場にいる皆さんの中で、誰一人として、クリエイティブなことができない人なんていないのではないかと、僕は思います。

    ただ、新しいものをつくったりするときには、やはりどうしても、経験というものが必要になってきます。その経験がみんなそれぞれ違うからこそ、個性的なレストランが作れたり、バーが作れたり、個性的ないろいろなものが出来るんじゃないかと思っています。

     

    次は(クリエイティブについて)僕の料理のほうから、ひも解いてみたいと思います。

    この料理は、今、お店のシグニチャーディッシュとして、インターネットを通じて世界中で紹介されているということもあり、この料理を目指して店に来てくださるお客様がいます。でも、素材だけで言ってしまうと、これはただの牛肉のカルパッチョです。牛肉のカルパッチョと、スープと、ジャガイモのピュレ、パセリのオイル。たったそれだけです。ではなぜ、そんなにこの料理が気になって食べに来るのか。そして、僕はなぜ、これを食べさせなければいけないのか。というところに、その、「クリエイティブ」というものが隠されているんじゃないかと思っています。

     

    何がきっかけでこの料理を作ったかというと、この牛肉は経産牛なんです。今でこそ、経産牛は皆さんが手に入れやすい状況になっていますが、この料理が生まれたのは、6年半前です。その頃は、経産牛って、どうやっても手に入らないんですね。当時僕も、経産牛が欲しいから手に入れたんじゃないんですよ。牧場の方たちと話している時に、すごく年老いたメスの牛さんがいたんですね。その牛さんは、もう5回も6回も子どもを産んで、お乳も出ないんです。「このあと、この牛さんはどうするんですか?」と聞いたら、ミンチにするだけだよ、という話だったんです。

    でも、僕は何か、違和感がありました。ここにいる牛さんの価値がないというのは。せっかく愛情も込めて、子どももたくさん産んでくれて、その後、価値がないままミンチにされるというのはちょっと違うんじゃないかなと僕は思っていて。それで、枝ごとは買えなかったので、部位で買わせていただいて、店に持っていきました。それで、食べてみると、筋張っていますし、少しにおいもあります。ただ、うまみだけはすごくあります。

    僕は料理人なので、これを美味しくする必要性があるんですよね。美味しくすることによって、人にこれ(の価値)を理解してもらえる。理解してもらえるということは、価値を生むということです。ただやはり、賛同者がいなければ、価値にはつながらないです。クリエイティブというものは、価値がないものであっては、僕はいけないと思います。

    価値のないものから新しく価値を創造していくと言うことが、クリエイティブなんじゃないのかなと僕は思います。

     

    牛肉はスライスして、一晩、干し肉にします。そのあとに低温で火を入れることで、またやわらかくなります。さらに、ここにかかっているスープなんですけれども、今の店がオープンしたての頃は、くず野菜とくず肉だけでとっていました。要は、これも同じことがコンセプトです。価値のないものから、価値を作る。

    くず野菜やくず肉は、レストランではいくらでもあるんですよね……いくらでもと言ったら語弊がありますが、常日頃から、身近にある食材です。そういったものからこの料理を作っていく。そして、この料理を作れるんだったら、何かメッセージを一緒に込めて出していこう、ということから、この料理を「サスティナビリティ、牛」という名前でお客様に提供しだしたところ、結果的には世界中から、この料理を食べに、お客さんが来るようになりました。本当に、ひもを解いてしまえば、ただの牛肉のカルパッチョなんですけれども、その、作り出す……くっつけ合わせるときの考え方、そういうところがすごく重要になってくるんじゃないかと、思います。それこそがまさに、クリエイティブなんじゃないかなと、思っています。

    牛肉なのですが、僕が小さいとき、スーパーに「和牛」は、ぎりぎり、置いていました。でも、今、僕の家の近所の庶民的なスーパーでは、和牛というものは存在しないんです。少しずつ、少しずつ、……ものすごく、生産量が、減っています。

    そうした状況で、海外の方にとっては日本イコール和牛というイメージがありますし、日本人が牛肉を使いメッセージを発信していくことがすごく重要なんじゃないかと思っています。そういうところからも、こうした料理を作っています。

     

    ここまでお話ししたように、確かにクリエイティブというものはすごく重要だと思っています。何か新しいものを作らなければ、時代というものはできないので。でも、これからのクリエイティブというのはどういったものか、考えたことがありますか? 僕は、南雲さんからこの問いを投げかけられるまでは、これからのクリエイティブってどういうものなのか、あまり想像もしたことがなかったです。それで、今回、僕がここに立たせていただいている時点で、サスティナブルなクリエイティブとはどういうことか、改めて考えてみました。

    サスティナブルという言葉は、未来の子供に、何を残していけるかという点でクリエイトをする、ということだと思います。世界の中の大人の一人として、僕にもその責任があるんじゃないかと、正直思っています。そして、(料理人は)何かを作り出す職業なので、それを通して、皆さんに何かを訴えかけられるような活動ができたらいいなと思っていて、(料理人の)クリエイティビティと、サスティナビリティというものを、今後は少しずつ結びつけて、料理を作っていければと思っています。

    ただ、この、サスティナブルなクリエイティブって、すごく、とっつきづらいんですよね。何をやっていいかわからないですし、何をどう調べればいいかもわからないんです。正直僕も、少しずついろいろなところから話を聞きながら、勉強したり、調べたり、自分なりに取材したり、そういったことをしていったのですけれども。でも、その中で、一番わかりやすいと思ったものがあります。

    2030アジェンダ(※)という表なのですが、これは、国連で、3年ほど前に制定されたものです。ここに書いてあるのは、飢餓や、自然災害、環境破壊、海の資源、もちろん平和についても。海の資源はいろいろありますし、食材の資源も含みます。また、人口爆発により、今後さらなる飢餓者を生むのではないかと言われています。

    ※2030アジェンダ…「我々の世界を変革する:持続可能な開発のための2030アジェンダ」。2015年にニューヨーク国連本部で開催され、150超の加盟国首脳が参加した「国連持続可能な開発サミット」の成果文書として採択された。2030年までの達成を目指した、「貧困をなくす」「飢餓をゼロに」「海の豊かさを守る」等の、持続可能な開発のための17の目標が記されている。

    国連サイト:

    http://www.unic.or.jp/activities/economic_social_development/sustainable_development/2030agenda/

    こうした事実・予測は、料理人がレストランを営み何か発信をしていくうえで、どうしても避けては通れない、ひとつの大きな部分なんじゃないかと思っています。フードロス(※)というものがあるのですが、日本は、1人あたりのフードロスは世界でダントツで一番です。世界で一番無駄を作っている国が日本です。その上で、日本人(で、食に関わり何かを表現する人)が、ここに何も関係なくクリエイトしていくという道はないと、正直思っています。

    今後、僕だけでは何もできないですし、いろいろな人が、一人ひとり、理解を深めながら、こういった活動をしたり、発信をしていくということが、僕は、(料理、食に関わる)クリエイターにとってすごく重要になっていくのではないかと思っています。

    ※フードロス…食べ残し、売れ残り、賞味期限切れなどにより、まだ食べられるものの捨てられる食品。

    その中で、先ほど配ったカード(※)。お店では、先ほどの(経産牛の)料理とともに、このメッセージカードを、お客様ひとりひとりに配っています。うちの店に食べに来ると……牛肉が食べられないお客さんも中にはいらっしゃるので、そうするとこのカードは配れないのですが、牛肉を食べられるお客様は全て、このカードを目にします。

    ※カードには、日本の年間フードロス量推計や、それに対するフロリレージュの取り組みの姿勢等が書かれている。

    ここは飲食関係の方が多いと思うのですが、この活動は、レストランのためには、プラスになることは正直ないと思います。僕もやっていて、「こんなハレのレストランで、こんなカードを出すなんてありえない」と言われたことは何回もありますし、売名じゃないかともしょっちゅう言われます。

    それに、僕の場合オープンキッチンなので、調理場作業が全て丸見えなんですね。その中で、肉を切り分けていくときに、すごく破片が出たりするんですけど、「(サスティナブルやフードロスについて言っているのに)捨てるんじゃないか」という批判も受けます。

    もちろん、そういった部分はいろいろと、まかないにまわったり、極力人の口に入るようにうちの店でも努力はしていますが、きっと、皆さんも、今後何か活動をしようと思ったときに、そういうことを言われることが、必ずネックになってくると思います。でも、いつも僕は思うんですけど……たいがい、そういう文句をいう人って、何も考えていないです。何も活動しないで(いる人に)言われることが多いんですけれども……。でも、その中で、一生懸命こうした活動をしているクリエイターは山ほどいますし、そういう人たちと一緒に前に進んでいくことが、すごく重要なんじゃないかと、僕は思っています。

    僕のすごく好きな言葉なんですけれども、
    「one man’s trash, another man’s treasure」。

    この言葉は、ある人にとってはゴミかもしれないけれども、ある人にとっては宝の山なんじゃないか。っていう言葉なんです。これって、なんとなく、先ほど言ったフードロスにも通ずるところがあるような気がします。さらに、先ほどから皆さんが話している、クリエイトする部分にもすごく通ずるような気がしませんか? ある人にとっては何の価値もないひとつの素材だけれども、ある人にとっては、宝になる可能性をもった素材なのかもしれない。そういったところが、重なり合って、クリエイトする人が生まれ、クリエイトされるものが生まれると僕は思っています。

     

    僕がクリエイトと言うときには、やはり、今後の未来。サスティナブルなクリエイトというものをひとつ、心の中に抱えながら前に進んで、新しいものを作っていけたらいいと思っています。ここに座っている方、みなさんがクリエイターだと思っています。僕も頑張りますので、皆さんも頑張ってください。今日はありがとうございました。

    (以上川手氏スピーチ)

     

    この日の登壇者は川手シェフのほかに、「food creation」主宰の諏訪綾子さん、茶道教室「SHUHALLY」主宰の松村宗亮さん、日本酒バー「GEM by moto」店主の千葉麻里絵さんの、計4名でした。みなさん飲食業に関わっていますが、活動するフィールドの異なる方々です。コーディネートしたのは主催の南雲さんでした。

    • 南雲主于三さん(スピリッツ&シェアリング株式会社CEO)

    • スピーチ後の質疑応答の様子。右から諏訪綾子さん(「food creation」主宰。国内外でさまざまなパフォーマンスを通じて食にまつわる体験のデザイン・表現活動を行う)、村松宗亮さん(「SHUHALLY」主宰、裏千家茶道准教授)、千葉麻里絵さん(「GEM by moto」店主、酒ソムリエ)。

    「Creative Conference」は、登壇者のそれぞれの創造性に触れることで、聞き手の創造性が刺激され、新たな創造が生まれるきっかけを作る場として開かれたようです。今後も、新たな登壇者を迎えながら、各地で回を重ねる予定と伺いました。

     

    Fin.

     

    取材後記

    この会での川手シェフのスピーチは、クリエイティブというテーマに沿いながら、サスティナビリティなどのシェフの取り組みと考えが、初めて聞く人にもわかりやすくまとめられていたように思います。本サイトで連載しているインタビューのバックボーンを、改めて伺うことができたような気がしました。