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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.1  2017年12月 ミシュラン、トルコ料理学会 (2/3)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフとして、国内外のさまざまな活動を通じて自らのメッセージを発信している川手寛康さん。この連載では、川手シェフが何を考え活動を続けているのか、編集部が伺ったお話を中心にお届けしていきます。第一回は、2017年末、フロリレージュがミシュランガイドブックで二つ星を獲得した直後のインタビュー内容です。

    料理人の持つ選択肢

    ――12月はミシュランの発表のあとに、トルコの料理学会もありましたね。帰国されたばかりかと思いますが、いかがでしたか?

    よかったです。でも、僕は英語圏の人間じゃないので、どこまで伝わったかわからないんですけど。

    ――料理学会は、いろいろなところでありますね。

    トルコもありますし、スペインでも、日本でも、スイスでも、ノルウェーでも、カリフォルニアでも。それぞれ主宰が違い、同じ学会ではないです。今回は小さい学会でした。

    僕はオープニングスピーカーだったのですが、それもよかったですね。オープニングがあって、そのままスピーチに入るので、盛り上がりますし、一番話を聞いてくれるので。それに、オープニングスピーカーの話でその先の流れが決まりますし。

    ――今回はどんなお話を?

    チョコレートの話と、僕が以前から取り組んでいるフードロスの話とミックスでいきました(※)。今回は、プロダクツというテーマだったので、ひとつの食材、チョコレートに焦点をあてて、そこから、たとえば児童労務、環境、不正取引……そうした問題について話しをしてきました。

    ※チョコレートとフードロスについてのお話は、別の回でお届けします。

    ――反応はどうでしたか?

    いろんな人がamazingなスピーチだったぜってメールをくれますけど、実際はわからないです。自分で英語スピーチをしたので、ネイティブからすれば意味のわからないところがたくさんあったと思います。でも、自分の言葉で伝えるっていうのが重要なんじゃないかと思っています。あれを、日本語でやるのはナンセンスなんじゃないかと。なるべく字幕もつけながらやったので、ある程度は理解してもらえたんじゃないかなって思っています。

    終わってから、いろいろなシェフが声をかけてくれて……どこまでかわからないですけどね。アマゾンをアテンドしてくれるというシェフもいて、アマゾンはまた、来年行く予定です。

    今年は、トルコ(の学会)が一番の山でした。11月、僕、すごく機嫌が悪かったんですよ(笑)。30分間英語でスピーチしなくてはならず、とんでもない量を覚えなくてはいけなかったので。それと、お恥ずかしい部分ですが、発音が本当に難しい。自分では正しく発音しているつもりでも、ネイティブの人にはわからないですからね。魚のスズキを「シーバス」って言うのも、(ちょっとしたアクセントや発音の違いで)通じないですからね。そういうことが30分間続くんで、死にそうなんですよ、本当に(笑)。聞いたことない言葉ばっかりだし。

    ――専門用語も多そうですね。

    そうですね。公害の話とかもしました。アマゾンの話を。アマゾンはものすごいスピードで……とんでもない面積がなくなっているんですよ。今年行って、見てきたのですが、アマゾンの上流のところで何かの建設が始まっていて、あれ何だろうって言ったら、アジアの企業でって。ああ、そういうことが実際あるんだって。あれやばいよねって言って。本当に、魚たちがたくさん死んだりして。そういうことがいっぱいあるんでね……。そういうことも話しました。

    ――人間が何かを作ったら、何かが崩れますね。

    究極論、人間なんていなければいいっていう話になってしまう。でもそんな話をしてもきりがないじゃないですか。僕が何十億何十兆円かけて何か計画を立てられるとしたら、地球の外への移住計画じゃなくて、地球再生計画をたてます。同じお金を使うのなら、そのほうがよっぽどいいんじゃないかと僕は思うんですけど。ここの星がだめならあっちの星に行けばいいなんて、相当ずるい話のような気がしますけどね。結局繰り返し。次、また次、次って。

    ――発表された取り組みについてもう少し詳しく聞かせてください。

    たとえば、チョコレート、カカオの生産に関して、問題になっている児童労働などを(直接的に)取り締まるのは、警察などの仕事です。僕はどちらかというと、現状で、バックグラウンドに自分たちが問題だと考えることが隠れている製品……もしあったとして、それを買わなくてはいけないという選択肢をとらなくても済むんじゃないか、ということをやりたいんですよね。料理人ができること、僕たちができる唯一の選択は、選択肢を持つということなんじゃないかなと思う。今、選択肢を持つということすらできない。たとえばそういう環境下に置かれるようなチョコレートを買うのではなく、違うところを応援していく、購買によって応援につなげることができたらいいなと思っていて、そういう選択を持つ(作る)ことが重要なんじゃないですかっていう発表をしたんです。

    新しいものを作って行きましょう、今行われていることも理解した上で、新しいチョイスを持っていきましょうという話をしたんです。

    ――たとえば、規模の大きな企業などの市場シェアの話などでしょうか。チョコレートに限らず、議論されていることですね。

    それがあったとして、だったら、新しいラインを作って行くということが大事ですよね。自分の納得のできる、顔の見える生産者から製品、たとえばチョコレートを買っていくという方向性に変えていくことが、一番重要な選択肢になっていくのではと思います。

    ――それは、農業の有機栽培作物のお話にもつながりますか? 以前お話を伺った際、たとえば有機栽培をしている生産者となぜ取引をするかというと、そうしないと淘汰されてしまうからとおっしゃっていましたね。

    そうです。日本の有機栽培は、そうでない作物に比べて本当に少ない(農林水産省資料による場合、生産量、耕地面積ともに1%未満)。それとそうではない90何パーセントの戦いって、そんなのどう考えても、有機のほうが小さい(弱い)ですからね。僕たちが使っていかなければ、いつかは淘汰されてしまうと思う。でも、野菜などの農作物に関しては、未来のことを考えるのであれば、有機栽培ではない栽培がなければ食料を賄いきれないし、仕方がないんですよね。仕方がないし、やるべきだと思う。それに、農薬を使うことによって空いた時間ができる農家の人がいるというのはいいことなんじゃないかと思います。他に努力をする時間が持てるということですから。もちろん、リミットはあると思います。それを守りながらやっていく、ということです。

    でも、僕たちはこっち側(有機栽培)の人を応援しなくてはいけない。こっちの人も残さなくてはいけない。この人たちは守っていかないと、一瞬で消えていってしまうものです。だから、つねにスピーカー役が必要になってくる。

    ――お店(フロリレージュ)のお客様の中には、そうしたことに興味のある方もいると思いますし、レストランが伝える場として機能していると思うのですが、もっと広く、たとえば一般家庭の人々などに伝えていくことについてはどのように考えていますか?

    価値観の問題になってきますよね、何をチョイスするかというのは。僕たちの有機の選択肢と、家庭での有機の選択肢って、ちょっと違うと思います。家庭の有機の選択肢というのは、半分は安心のため。半分は健康のためというところが大きいのだと思います。

    でも、僕たちは、もちろん安全はあたりまえのラインなんですけど、それにプラスアルファのことが、その野菜を使うか使わないかの選択(基準)になるんですよね。とにかく無農薬だからいいだろうという考えで野菜を作っている生産者と、ある気持ちや考えをもって作っている生産者がいたとして、僕はこの人(後者)の考え方が素晴らしいと思ったら、もしかして農薬を使っていたとしても、この人をチョイスするわけです。

    たとえば、生産者のおじいちゃんが子供たちのことを考えて、なるべく農薬を使わないようにするけど、このくらいまでだったら体に害はないし、今後、もう少し大きく、いっぱいいろいろなものを育てて、みんなに食べさせてあげたいからこの農薬を使うんだ、という考え方を持っているのであれば、僕はそれは、全然問題ないと思います。そういう人たちを守っていくべきじゃないですか。

    商売としては、消費者の中に健康志向の人たちがいるから、とりあえず農薬を使わないで、どんなに痩せた美味しくない野菜でもいいから、とりあえず作って売るという会社もあるかもしれません。でも僕たちはそこを応援するんじゃなくて、気持ちのあるものを応援したい。

    でも、それを、どう僕たちが伝えられるかと言ったら、すごく難しい話ですよね。本来こういう(気持ちのある)人たちを応援していくということが正しい姿だと思う。無農薬か無農薬じゃないかというのは……言葉は悪いですけど、実はあまり大きな問題じゃないという気がします。

    ――先を見ている人たちということですね。

    やっぱり、未来がある生産者の人、考え方を持った生産者の人をチョイスしていくのが、重要だと思います。

    農薬がなぜいけないかって、もちろん人体にもよくないけれど、環境にも害なんですよね。土壌汚染につながってしまう。でも、土壌汚染は少なからず、必ず進んでしまう。野菜を植えた瞬間から土壌汚染は始まっている。人工的に種をまいた瞬間から。何をどうとらえるかは、その人の価値観によって大きく違うので、それを強要できるかは正直何とも言えないラインではあります。僕の考え方を伝えることはできるんですけど、それを強制することはすごく難しいと思っています。それでも、自分なりの提案はしていくつもりです。

    ――このサイトでも、少しでもお手伝いができればと思っています。

    そういう人たちがいて、書いてもらうのも役割だと思うんです。僕が発信するのも役割じゃないですか。だから、その役割分担が、ただただあるだけで。その役割がみんなつながってこなかった。今まではね。それがちょっとずつつながってこれば、もっともっと、大きな輪になってくる。だから、発信する人が偉いとかじゃなくて、みんなが小さな役割分担をこなして、社会的に一生懸命、いい方向にもっていくっていうことが、最終的には重要だと思います。

     

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