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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.7  「今」の料理(1/4)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフ川手寛康さんに、国内外でのご自身の活動について、編集部が伺ったお話を中心にお届けする連載です。

    川手シェフが考える「今」の料理について、さまざまな角度からお話しいただきました。

    PHOTO: CUISINIER編集部
    • Oct. 16, 2019

    ――川手シェフ、お料理の撮影をありがとうございました。今日の取材のテーマを「今の料理」でお願いしていますが、そもそも、シェフは「今の料理」を意識されることはありますか?

    川手――ないです。というか、「今の料理」って、どういうことでしょうか?

    ――「ご自身の今」だったり、「今の時代」の料理です。

    川手――時代の料理は、追えば追うほど……こういう感じなんだな、というのはなるべく思わないようにしています。たとえばnomaとか、自分では想像もつかないようなアプローチは勉強になることもすごく多いですけど、でも、何かと比べて、となると本当につまらなくなってきてしまって。たとえば鮎の料理があって、和食の姿焼きに比べて自分の鮎はって思いはじめたり。それって、すごく自分らしくないんじゃないかと思って。

    ――自分らしさですか。

    川手――大事なのはそこじゃないかなと思います。

    ――実はほかの料理人さんにも同じ質問をしたことがあって、答えはいろいろでした。いつも考えている、という方もいました。

    川手――僕は逆ですね。うーん……僕は飽き性だし、今現状作っている料理も、どんどん変わっているわけで。極端な話、この取材が始まった時と今でもすでに料理もアプローチも変わって、自分が作っていて楽しいものを常に求めていく。要は、自分がどう思うかしか、自分の料理には必要ないんじゃないかなと。

    ――そうしたところで、今日は3品「川手シェフの今」の料理を作っていただきました。お料理についてお話を伺わせてください。

    川手――今、自分の中では、見た目はすごくシンプルなんですけど複雑な構成だったり、複雑な仕事をしているというのがすごく楽しくて。それと、コースの半分くらいを二皿構成(二皿を同時に出す)にしています。一皿はメインになる料理で、さっきも言ったように、すごくシンプルに見えるけど、すごく仕事をしているお皿です。もう一皿はその骨格を保ってくれるようなつけ合わせ。これが、今自分の中でしっくりときている、お客様にも喜んでもらえているんじゃないかなと思う構成です。

    ――つけ合わせで骨格を保つということについて、今日のお料理で具体的に教えていただけますか? 1品目は牡蠣のお料理でした。

    川手――メインとなる一皿はレモンでマリネした牡蠣に、干した牛肉のタルタルをのせて、レモンのスライスで覆って、その上にさらにレモンのクリームをのせています。
    もう一皿は、牡蠣のまわりの部分(端材)で作ったスープで、白ゴーヤをぬか漬けにしてペーストにしたものが中に入っていて、上にニラの花がのっています。

    僕は、味わう中で単調になって飽きるということがすごく嫌いで。一品が少量だから飽きることはまずないんですけど(笑)、それでも嫌なんですよね。メインの皿は、口の中に入れた瞬間にレモンの風味からスタートして、最終的にレモンのクリームが溶け終わります。レモンから始まってレモンに戻ってくる流れです。途中でオイスターの味わいがあり、牛肉の味わいが微妙にからみつきながら口の中に残るんですけど、それだけで終わることが、僕の中では単調に思えてしまうところがあって。それを変化させてくれる、ワインと料理の関係のようなつけ合わせ。

    僕は料理を考えるときに、自分でソムリエ資格を持っていることもあって、昔は一つのお皿とワインとの組み合わせがすごく重要でした。でも今はもう、料理ってそういうものでもないかなと思って。ワインに代わるようなペアリング的なものを、液体という範疇を超えながら作っていっているという気持ちです。だからその次の鹿(ロースト)も、つけ合わせは鹿のコンソメにひたした鹿のグラタン。サンマにはトマトのスープ。あれってペアリングじゃないですか?

    ――そうですね。

    川手――鹿はどうしても最後に脂…僕は鹿の脂が好きなのですが、融点が高いのでどうしても口の中に残ってしまう。それを洗い流すためにも、スープを合わせることによって(完全には)リセットしないで一品の中で完結していける。ドリンクはうまみ成分が少ないないから、完全にリセットされてしまうことが多いんですよね。

    ――切る感じですか?

    川手――ええ、とくにティーペアリングの場合は必ずタンニン分だったりでリセットされてしまいます。でも、スープだと、そのままの余韻で続けていけるじゃないですか? なおかつ、(メインの皿と)違うテクスチャーだし、違うアプローチ。というのが、なんとなく、自分の中では、完成されたコンビネーションのような気がして。

    スープ仕立てという位置づけで作っているわけでもないんですけど、でも、なぜ鹿のグラタンをスープにひたしているかというと、やっぱり、重さを消したい。スッとなくなっていってもらいたいものだから。鹿を食べながら、そうやってやんわりとリセットをしながら進めていきたいというものです。

    ――サンマのお料理はいかがでしょうか? メインのお皿は、香味野菜にサンマを巻いて炙って、イクラのソースをかけたものですね。

    川手――サンマは、僕の中ですごく、主張が強い。しょうゆをつけようが、煮込もうが、米と一緒に炊いたってサンマじゃないですか? 何をつけようがサンマなので、それを崩さないバランスでというイメージで、トマトのジュースを合わせています。

    ――こうしたお料理で構成されると、コースの流れにも変化がありますか?

    川手――流れは、お客さんによってもばらばらですね。でも、今のお店のスタイルは、もう一回リセットしようと思っています。その時に、まさにこういう構成、二皿か三皿でという料理感で、皿数は少ないんですけど、とんとんとん、とやるお店を作りたいなと思って。今は次のステップの、ある意味、予行練習というのもあります。

    ――コース自体は短くなるということですか?

    川手――今、皿数が12皿もあるので、それをたとえば、3皿、2皿、2皿、3皿といった構成にしていって、もうちょっと、キュッとさせて。今、一回のコースで3時間半くらいかかってしまうので。長い時間がいいというわけでも、もう、今の時代違うと思います。できたら2時間半くらいで終わりたいと思っていて。その中で、自分らしさが出せて、自分が納得する料理構成で、となってくると、今言ったようなスタイルが、作っていても自分っぽくていいんじゃないかなと思います。

    ――時間を短くしたい理由は感覚的なものでしょうか?

    川手――長ければいいっていうわけじゃないと、僕は思います。

    ――そう思い始めたということですか?

    川手――そうですね。うーん……うーん……老化ですね(笑)。

    ――(笑)

    川手――長いディナーコースを最後まで楽しめなくなりました。あと、もう一つ、ボトルでワインを頼まなくなったというのが理由、かもしれないです。昔はボトルを自分で選んで、コースの中身も選びながら楽しむというのが自分の食べるスタイルだったんですけど、だんだんと、ペアリングというものを楽しみたい気持ちが出てきているから……。

    自分の中では、ワイン1本で通すよりも、ペアリングをとるほうが楽しく過ごせるんじゃないかなと思っている。3時間半は長いと感じているということは、2時間半くらいで終わらせたいと思っている。ということは、そういうお店を作りたいっていうことで。それは自分自身の問題でもあると思います。ただ、レストランは、自分のやりたいものとお客さんのニーズが合っていれば成り立ちます。自分自身を信じて。

    ――コースをタイトにしていくことで、お料理の中身というか、味の構成やメリハリ感などは変化しますか?

    川手――キュッとさせるのはまだ先の話なので(笑)、実践してみないとわからないんですけど、でもまあ、沖縄(ハレクラニ)とかではテスト走行しています。その中では、やっぱり、インパクトのあるお皿を、味わいのメリハリがあったりとか、そういうお皿を入れ込んでいけるタイミングが増えたかなと思います。長いコースだと……なんて言ったらいいかな……一皿一皿の印象が薄い……ですよね?

    ――そうなってしまいがちかもしれませんね。

    川手――ええ。でも、それが、キュッとさせることによって、ボリューム的にも、皿数的にも、意外と、印象に残るような料理を作りやすくなる。というところはありますね。

    ――ずいぶん変化がありそうですね。

    川手――本当に料理って、自分でお店をやればやるほど、「こうだよね」とか「こうしなきゃだめだよね」とかって必要ないのかなって思います。毎日天気も違うし、一緒に食べに来る人も違うかもしれないし、いろいろな条件が毎回違いますからね。その中で、作り手も一緒っていうわけでもないですから。

    毎日毎日、自分のいいと思える料理を作れる環境を作ることが、これからのレストランにとっては重要になってくるんじゃないかと思います。臨機応変にシェフの感覚を落とし込める……シェフの感覚というか、レストランの感覚を落とし込めるお店が、勝ち残れるように僕は思います。自由度が……お店としての自由度が高い。お客さんの自由度が高いお店は山ほどあるんですけど。

    ――そうですか。

    川手――アラカルトをやっているお店、たとえば居酒屋さんなんてとても自由度が高いじゃないですか? でもそうではなく、お店としての自由度が高いって、すごく難しいんですよね。「今日あれがやりたい」って思った時に、それができるかって、すごく難しい。でも、それができるお店は、いいお店なんじゃないかなと思います。たとえば、(神宮前の)傳さんなんてまさにそうですよ。お店としての自由度が高い。

    ――具体的には?

    川手――お客さんに合わせたオートクチュールで出せるお店って、なかなかないです。アプローチの自由度が高い。それは、もしかしたらお店に来てみてから自由度を高くしなければいけないお客さんもいれば、前々からわかっている、この人はこうアプローチしたいと思えるお客さんもいるじゃないですか? そういう、「お店がやりたいこと」ができるお店って実はなかなかなくて。

    ――「お店がこうしてあげたいこと」ができるお店、ということでしょうか?

    川手――ええ。それって自由度じゃないですか? 決まったメニューを食べてもらう、ではないじゃないですか。

    ――その場でシェフやスタッフさんが感じたことを反映していけるという。

    川手――自分がどうやってあげたいかを落とし込むということが、意外とできそうでできないですよね。

     

    続きます。次は「料理のトレンド」についてです。