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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.7  「今」の料理(2/4)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフ川手寛康さんに、国内外でのご自身の活動について、編集部が伺ったお話を中心にお届けする連載です。

    川手シェフが考える「今」の料理について、さまざまな角度からお話しいただきました。

    PHOTO: CUISINIER編集部
    • Oct. 16, 2019

    ――次は、料理のトレンドについて伺わせてください。川手シェフは、最近の料理の変化についてどのように感じていますか?

    川手――料理の世界は、常に変わっていると思います。もちろん、ときどき大きく壊すシェフが現れる時があると思いますけど。一人はレネ・レゼピかもしれないし、パスカル・バルボかもしれない。時代の中で必ず何かを壊す人が現れて、それでトレンドができますけど、今、突然変わったことはないです。

    ――この1、2年で大きく変わった、と感じている方もいるようです。

    川手――そんなことはないです。料理なんて常に新しいものが動き出すので、昔からそれは変わらないと思います。その伝達スピードが速くなっているだけじゃないかな、インターネットの発展で。トレンドって情報じゃないですか。情報伝達のスピードが速くなれば、トレンドも速く変わっていく。そうすると、ついていけなかったり、知らない情報が世の中にごまんとある状態になる。というだけで、料理人自身の気持ちはそんなに変わっていないと思います。新しいものを求めたい、作りたい、お客さんをびっくりさせたい、料理で何かをしてあげたいと思うシェフの気持ちって、どの時代でも変わらないと思う。むしろ面白くなってきているような気がします。

    ――面白くなっているとは?

    川手――なんて言うんだろうな……昔は新しいことをしたり、失敗をすることって、すごくよくないことのような感じがありました。それは情報伝達が遅いから、何か「悪い」「美味しくない」ってなると、それがすごく長く続いてしまうけれど、今の時代はそれが一瞬で過ぎ去ってしまって、失敗することのほうが意外と重要だったり。新しいことを投げかけて、バッシングされるようなことのほうが意外と面白かったりとか。そういうこと、新しいことをやってもいいんだぜ、っていう世界になっているように思います。

    ――食は、保守的な部分が大きいのではと思うのですが。たとえば、アートに比べると。身体に入るものだからかもしれませんが。

    川手――アートと料理の大きな違いは、身近か身近じゃないかということだと思います。食べることって、毎日じゃないですか。でも、アートって、(人によって、また何をアートと捉えているかにもよるが)せいぜい週に1回、月に1回しか見に行かないですよね。どっちが身近かと言ったら、やっぱり食のほうが身近なんですよね。だから、自分で判断しやすい。基準をもっている人が多い。だから、「ダメ」って言いやすい。

    ――ああ。

    川手――でも、そんなこと、もうどうでもいいような気がします。新しいことをやって、3の人に怒られた時、7の人が賛成すれば、それが正しいと僕は思う。それでお店がやっていけるならいいのであって。

    ――以前はダメだったけど今はOKになっていると感じることはありますか?

    川手――なんだろうなー……時代的なのは、サスティナブルな部分かもしれないですね。昔はサスティナブルな活動をすると、なんとなく、それをわざわざ謳ったレストラン、みたいな。そんなことよりも、もっと美味しい料理を作ったほうがいいんじゃないのっていう意見がすごく多かったんですけど、今むしろ、「サスティナブルなお店じゃないと絶対ダメ」みたいな。

    ――そういう空気は感じます。

    川手――でも、それも時代の移り変わりでしょう? パンも、蒸しパンを出したら怒られましたけど、今は蒸しパンいいねって言ってくれたり。

    ――怒られたんですか。

    川手――「なんでバゲットじゃないの、フランス料理店じゃないの!?」みたいな(笑)。でも、お店で蒸しパンを出すのなんて、はじめのうちは……もう6年も前の話ですけど……お客さんだって、ドキドキする。さっき言ったように、毎日食べているものが突然変わっちゃうと。でも、ダメって言われる言葉が、僕は悪いことじゃないと思っているから。その中で確証をもって、僕は蒸しパンを出している。

    それに、レストランとかシェフとかって、さっきアートの話が出ましたけど、やっぱり、ものを作り出す人なんで、「何かをやっちゃダメ」って、絶対ないと思うんですよね。僕はね。何やってもいいと思うんですよ。

    ――身体に害がなければ。

    川手――なければ、もちろん。宇宙食を作るレストランがあったって別にいいと思うし。昔はそういうことがすごく、ダメでしたね。でも今は、さっき言った通り、時代が速くなってきてるから、前よりも、すごく、許され始めてきているんじゃないか、ということにつながっている気がします。

    ――チャレンジしがいがあるとも言えますか?

    川手――それは、違います。昔からチャレンジの量って、あまり変わらないです。

    ――それは1人の人の中で、ということでしょうか?

    川手――そう。自分でしかわからないですけど。「今の時代だからチャレンジをもっとしちゃおう」っていう気持ちはまったくないです。自分のラインっていうのは、昔も今も、一緒。時代がどうなったからこうしちゃえ、という感じはないです。

    単に時代だから、みたいなのが一番まずいと思います。自分のところにちゃんとしたフィールドがあって、バックグラウンドがあって落とし込んでいないと。レストランはやっぱり、自分が経験したものとか、自分が感じたもの以外は料理に落とし込むことができない。それは今までもずっと同じじゃないですか? 5年前、このお店をオープンしたとき、フォワグラをやめて、輸入食材を全部やめて、みたいなことをしたけど、それと今、新しいお店を出すことって、僕にとってそんなに大きく違わないです。でも、今はなんとなく、やっても怒られなくなっちゃったな、みたいな。

    ――なっちゃった、ですか。

    川手――今からフォワグラをもう一度使い始めますって言っても、怒る人はいないと思います。それは、自分の立場が変わり、時代の流れも変わり、ということだと思いますけど。

    ――周りの人のシェフに対する認識が以前と変わっていることもあるかもしれないですね。

     

    続きます。次は「ガストロノミー」と「今の時代の料理」についてです。