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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.7  「今」の料理(3/4)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフ川手寛康さんに、国内外でのご自身の活動について、編集部が伺ったお話を中心にお届けする連載です。

    川手シェフが考える「今」の料理について、さまざまな角度からお話しいただきました。

    PHOTO: CUISINIER編集部
    • Oct. 16, 2019

    ――ところでシェフは、「ガストロノミー」をやっていますか?

    川手――ガストロノミーをやってると言ってもらえたらうれしいですが……お店はファインダイニングですけど、ガストロノミーという響きは好きです。

    ――「ガストロノミー」のとらえ方は時代によって変わってくるかと思いますが、今はどんなふうになってきていると、シェフは思いますか?

    川手――ガストロノミーというのは、たぶん、食べ手の言葉ですよね。うーん……どう考えても、多様ですよね。ガストロノミーという言葉自体が、多様化しています。

    ――使う人によって違うということでしょうか?

    川手――どの人のフィルターを通すかによって、ガストロノミーというものが大きく違って、答えがない。「フランス料理」と同じくらい、「ガストロノミー」という言葉に正解はないし、あまりに多様化しすぎていて。僕は楽しいですけどね。昔のガストロノミーって、代表がフランス料理だったじゃないですか? それが、和食でも、中華でも、今の流れで言えば居酒屋さんでも個性のあるお店はガストロノミックですし。いろんな部分でガストロノミーって言えるようになったかなあ。

    ガストロノミーって、悪い言葉じゃないと僕は思います。「美食」っていう言葉になるとあまり好きではないですが、「ガストロノミー」だと許されるものがある気がして。

    ――たくさんのものを含んでいる感じがありますね。

    川手――そうですね。いろいろなところで使える気はします。

    ――受け取る側の解釈にゆだねる部分も大きいと思いますが、シェフとしては今、ご自身で作るガストロノミーな料理は、どういうものでしょうか?

    川手――なんでしょうね……料理人って、言葉を持っていないですからね。言葉を持っていない代わりに料理というものを持っていることが多いので。自分自身ってなんですかと問われると、すごく言葉にしづらいところがあるのと同じで。そもそも、自分のやりたいもの自体が、とっとと変わってしまいますし。どこに定点を打ちながら、自分というものはどこなんだと思えばいいのかもままならないし。

    ――そういうことを考えているんですか?

    川手――聞かれるじゃないですか、必ず。「どういうものが、自分の中でいいレストランだと思いますか」というような。そんなの、「今日言っても明日は違うぜ!」みたいな。

    ――(笑)

    川手――それぐらい速く僕の中では変わっているし、今だって、早くここをとっぱらって新しいレストランを作りたいと思っている自分がいるし。さっき話したような料理感覚で料理を作って早くみんなに食べてもらいたいなっていう気持ちもあるし。でも今現状来てくれているお客さんのために一生懸命やらなきゃっていう自分もいるし。

    ――シェフお忙しいですね。

    川手――忙しいですけど、でも、それも今始まったことじゃないですからね。忙しいねって言われなかったことが今までないです。

    ――表面に見えることだけでなく、いろいろなことを考えているのが、お忙しいなと思います。

    川手――ああ、考えてることは多いですね。でもそれも、自由になったと思います。やりたいことが具現化しやすくなってきました。テストをしやすいですし、賛同者を速く集めることもできるようになったので。

    ――テストをしやすいとは?

    川手――今、フロリレージュのほかに、ホテルのレストランを(沖縄など)2軒監修しているのと、logy(台湾)もありますし、「こうしたい」と思った時にいろいろな場所で試すことができます。来年には(神宮前・傳の)長谷川さんとお店を出すことも予定していますし、やりたいことが具現化しやすくなりました。

    ――長谷川さんとは、どんなお店を?

    川手――焼鳥屋さんというか、串焼き屋さんというか。

    ――焼きもの屋さんですか。どうしてですか?

    川手――自分で戦っていけるんじゃないか、っていうラインが焼きものでした。僕は、鳥との関わり方って、焼き方一つとっても、フランス料理が一番だと思っています。これがたとえばすっぽん鍋屋さんとかだと、僕、戦えないじゃないですか? でも、唯一他の人よりも優れたお店をできる可能性を、焼きものは秘めているような気がしていて。

    ――肉の本も出されていますしね。

    川手――そう。肉を扱わせたら僕は負けない気がする。道具とアプローチさえ決めてしまえば。でも、やっぱり、そのためには長谷川さんが必要で。日本的なエッセンスが自分には足りないから、そういう部分をサポートしてもらいながら。

    ――シェフ、お店に立たれるんですか?

    川手――立たないです。むしろ食べたい。

    ――自分の行きたいお店ですか(笑)。

    川手――そうそう(笑)。まあ、それは冗談として、長谷川さんも言っていましたけど、そこで今のお店ではできなかったことができますし。今のお店のキャパシティは決まっているので、なにか、自分たちのフィロソフィを感じてもらえる場所を作れるということは、すごくいいんじゃないかと思っています。

    ――楽しみですね。……ところで、「ガストロノミー」については、サスティナブルなことがらに関しても、もしかしたらお話が伺えるかなと思っていました。

    川手――サスティナブル? 重要ですよ。今日も、一番最初「今の料理を作ってくれ」と言われたとき、自分の料理じゃなくて、「今の時代の料理」だったら、野菜だけの料理を作ろうと思っていました。でも聞いたら、「今の自分の料理」だから、ああいう料理を作りましたけど。時代の「今の料理」だったら、野菜だけの料理だと思います。極端な話、肉なんて食べないほうがいいです。

    ――それは、ガスや、飼料のこととか?

    川手――もろもろです。もろもろ含めて。たんぱく源はカプセルでとれる、カロリーは野菜からとれる、超最新の料理は、野菜と虫! 現状、このセットにかなうものはないです。もう、言うことないじゃないですか。「サスティナブルのど真ん中!」みたいな。そういうお店ができていいんじゃないかなって思う。……でも、僕は無理。だったら、今の料理をどうやって残せるかというほうが、よほどいい。どうやって、子供たちにも、同じような料理を食べてもらえる環境を作ってあげられるか。僕の中ではやりがいがあるかなって。

    ――ゼロにしてしまうのではなく?

    川手――たぶん、現実にはゼロにしないとダメだと思います。それは自分の中でもわかってます。申し訳ないとは思うけど、他人事じゃないけど、違う部分で勘弁してもらうしか方法がない。だってそんなの、料理人だけに言わないでよ、だったらもう、誰か決まりを作ってくれよ、……って、みんな思っていると思うけどな。

    ――ゼロにすると、文化がなくなるということですよね。

    川手――失うものは山ほど。でも、人間らしさを失わないと、人間らしさを取り戻せない。たぶん。

    ――極論ですか?

    川手――極論。どの時代で、人間らしさを失うか。僕のところでそのターンがやってくるのか、次の子供たちのターンで来るのか。……地球がひどいことになってるのは、わかるじゃないですか。それは、どこかのターンでやってくるんだろうなって思います。

    ――でも、作りたいものはやっぱり……。

    川手――だって、料理人ですもん。作っていて幸せな気分になれるような料理を作りたい。それはみんな同じだと思います。僕は今から全部は、自分自身を変えられない。できることはやりたいと思うけど。

    ――このあたりのお話、書いてもいいですか?

    川手――いいですよ。川手はひどいなって言われて終わります。

    ――どうでしょう。でも、みなさん、苦しいのではないかと。

    川手――苦しいですよ。料理人。もうなんか、複雑すぎる状況に陥っているから。心ひとつでしかないです。それは。

     

    続きます。次は「料理をビジネスにすること」についてです。