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    Serial連載

    川手 寛康連載インタビュー Portrait

    Vol.7  「今」の料理(4/4)

    神宮前「フロリレージュ」のシェフ川手寛康さんに、国内外でのご自身の活動について、編集部が伺ったお話を中心にお届けする連載です。

    川手シェフが考える「今」の料理について、さまざまな角度からお話しいただきました。

    PHOTO: CUISINIER編集部
    • Oct. 16, 2019

    ――これから、次の世代の料理人さんが出てくると思いますが、若い方たちに何か感じていることはありますか?

    川手――うーん……若い子の気持ちは、あまりわからないです。でも、みんな、新しいことをしないと時代についていけないって、思っていると思うし、悩んでいると思うんです。お店を出したとしても、思った以上に集客できなかったりもして。(自分の独立した頃のことを思うと)お金を持ってないから、僕もすごい怖かったし。

    ――そうなんですね。

    川手――でもそれは、みんな一緒だと思うんですよね。僕もそうだし、僕の知る限り、シェフたちはみんなそうじゃないかと思う。だから、若い子に「頑張れよ」ってあんまり言えないんですよね。もちろん、アドバイスはできるけど、それを実践するかしないかは、もう、その人の人生の問題だから、何一つ保証できない。「こいつすごいな」っていくら思っていても、僕の中では頑張ってほしいなって思っていても、「やっちゃえば」っていう言葉にはできないです。だって、失敗するかもしれない。それでその人の人生終わるかもしれない。僕、自分のお店を出したとき、本当に迷いましたから。移転するときも、実はすごく勇気が要ったんです。本当に移転していいのか、自問自答、めちゃめちゃしました。

    ――意外でした。

    川手――言葉では、「もう飽きたんで移転しまーす」みたいなこと、言います。でも、(借り入れの)サインする時、ちょっと手、震えたもの! 「本当にこれ、サインしていいのかな!?」と思って。

    一番最初のお店を作った時、実家を担保に入れたんですよ。そのときも手、震えたんですけど、移転でもう1回担保に入れたんです。もしこれで失敗したら、実家のおやじたちの年金まで奪うことになるんじゃないかなって思って。

    ――でもご両親は?

    川手――1回目はものすごく反対しました。でも、2回目は全然反対しなかったです。もう大丈夫だなって、親も思ったんじゃないかなって思いますけどね。でも僕自身は逆に、事の重大さが……額も倍になってるし、本当にこけたら、この額面じゃ復活できないなって、ちょっと震えました。

    ――シェフ、以前「成功すると思うことしかやらない」っておっしゃっていました。

    川手――ええ。もちろん。慎重に考えることは何より大切です。ほんとうに。知識も重要ですけど、でも何よりも橋を全部たたいて渡るような人間じゃないと社長にはならないほうがいいです。とくに、スタッフを抱えるようなお店の社長には。スタッフにも迷惑をかけてしまうし。

    ――お店の経営でポイントになることはありますか?

    川手――みんながやっていないことを選ぶ、ということですかね。負けないためにはどうすればいいのかってなればなるほど、みんながやってることをやればいい、というようになってくるんですけど……みんながやってれば負けないだろうという。でも、みんながやっていないことのほうが……それは自分の必勝パターンを持っているか持っていないかだけの話だと思います。料理に答えがないのと同じで、ビジネスにも答えがない。だって、台湾にお店を出して、誰が成功すると思います?

    ――わからなかったです。

    川手――でも、logyは評価されて、売り上げも立てているわけじゃないですか。それは、みんながやらないから。僕はチャンスだと思って、台湾での自分のネームバリューを自分なりにしっかり整理して、どういうアプローチでどんなふうに打ち出していけばlogyは負けないかというバランス感覚をもった上でやっています。

    ――人が選ばないところに進んで、そこに勝利パターンがあるとはどういうことですか?

    川手――簡単に言うと、そこにビジネスフィールドがあるかないかというだけです。要は、人がいなくてビジネスフィールドがあるところは、勝てるチャンスが高い。お金が動いているところがあって、そこに誰もチャレンジしないのであれば、じゃあチャレンジします、みたいな。……そんなの口で言うと簡単なんですけど。でもじゃあ、誰もやっていなくて、同じような条件だったら、フィリピンだって、インドだっていいじゃないかっていう話になるかもしれないけど、僕は、台湾のほうが勝率が高いんじゃないかと思って台湾に出しているんです。そのへんはやっぱり、見定めていかないと。

    たとえば僕が、今からビストロをやりたいとは考えないです。「今から3000万も借りるのか!? 本当に返せるの?」みたいな。

    ――そこはもう混み入っているということですか?

    川手――だって、美味しいビストロは山ほどあります。僕、行きつけのお店が2軒あるんですけど、2軒とも最高にうまい。あんなに美味しい料理を、あんな値段でやられていたら、かなわないですよ。「自分にそんなお店が作れるのか? そのフィールドで勝てるのか?」って。

    でも、ビジネスなんて、本当は答えがないです。世の中、イレギュラーなことで「それあるよねー」って、納得することばっかりですよ。

    ――シェフを見てそう思う人もいるでしょうね。

    川手――え、でも僕、そういうことは何にも言わないです。こうやって聞かれなかったら自分のビジネス論なんて絶対話さないですし、話しても、僕の考えていることの10%か20%くらいしかきっと伝わらないだろうし、と思いますよ。

    ――心に残る人は残ると思います。

    川手――僕は、ビジネス論は意外と、(六本木・ル・ブルギニオンの)菊地シェフから教わったことがいきています。頭のいい方だなって常に思っていました。

    ――菊地シェフは、そういうお話をされるんですか?

    川手――いや、菊地シェフは、ぽろっと言うんです。仕事中とかに。そういうものが、意外と、心の中にいまだにずっと残っている。菊地シェフほど負けない試合をしている人はいないだろうなって思います。

    ――それに気づかされる言葉があったのでしょうか?

    川手――言葉だけじゃないですね。シェフのやっていること自体が。これは負けないだろう……って思っていました。

    ――そう思えるかも、社長さんになれるかどうかなんですかね。

    川手――なんでも、馬鹿にする人はダメだと思います。僕もねじ曲がっているから、どっちかというとそっちのタイプだけど、でも、結果を出している人にとやかく言う筋合いはないですよね。だって、結果を出しているんですもん。きっとその結果には必ず意味があるわけだと思います。やっぱり社長になるって、そういうことだと僕は思う。本当に大変、お金借りてやるの。もう、若い子にはお勧めしないです。

    ――お店を始めるとき、若かったからできたけど、40歳をすぎて同じことをする体力はないと言う方もいました。

    川手――え、そんなこと言ったら、僕、40歳を機にがんがん広げています。

    ――それって、きっと前例のないところを進むからだと思うんです。前例があると見えてしまう、というのがあるじゃないですか?

    川手――前例があると、つまらなくないですか? ホテルのプロデュースも、台湾も、こんど焼鳥屋さんやるのも、そこにチャンスがあって飛びつくか飛びつかないかだけであって。……自分のフットワークがある中でやろうとするとうまくいかないような気がします。だったら、誰もやっていないようなフィールドに、ずぼーんと自分から入っていったほうが。僕の場合は。

    ――そうやって行動に移せることに憧れる人もいると思います。でも、お店を始めて最初の頃は大変だったと聞いたことがあります。そんなに混んでいなかったって。

    川手――みんな、なんか……そういう時代が、あるでしょ。はじめからうまくいく人なんてなかなか……僕、はじめからうまくいってますよねって言われますけど、ぜんぜんそんなことはない(苦笑)。まじでやばいかなって思うこと、ありましたもん。お店がオープンして1年終わった時、本当にもうやばいかなって、思いました。

    ――「これは勝てる」とか、石橋をたたいて渡るような感覚って、だんだん研ぎ澄ませていったのですか?

    川手――はじめはないです。はじめ、お店を出して、お客さんが来たのは奇跡みたいなものです。本当にあれは、ラッキーとしか言いようがない。

    ――へえ……。

    川手――もちろん自分では、あの時なりに、一生懸命いろんな伝手を使って、いろんなことをやりましたけど。もちろん、すぐに満席になるって信じてましたけど。でも、今考えたら、けっこうやばいぜ、お前の料理もやばいぜそれ、お前それで料理人きどってんじゃねえぞ、って、言ってやりたいですね。

    ――過去の自分に。

    川手――そう。

    ――でも、その時は自分で最高だと思ってお料理を出しているんですよね?

    川手――そうじゃなかったら、できないです。ほんと、料理人でよかった。残るものじゃなくてよかった。味なんて、消えていくじゃないですか。変な話、食べてもらったらそれで、なかったことにできる。

    ――それが、お料理のよいところでもあるし、さみしいところでもあるかもしれませんね。

    川手――僕にとってはすごく助かってます。あのときの料理、人様に出せない。怖くて。引かれちゃう。

    ――そうやって、今のお料理に変わっているということでしょうか。

    川手――(笑)わからないです。10年後また、自分に言ってるかもしれないです。恥ずかしいなあ、なんなんだよあの料理、みたいな。言っている可能性は大ですけどね。

    ――その時にまた同じテーマで取材をさせてください。

    川手――いやいや、勘弁してください(苦笑)。

     

    Fin.