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    Serial連載

    小林 寛司La vita di naturale 日々をつむぐ料理

    Vol.2  撤収 8月

    和歌山のレストラン「ヴィラ アイーダ」の日常を、編集部の取材をもとにお届けします。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    「今畑行っても、なんにも(実って)ないですよー?」8月の終わり、夏野菜の盛りは過ぎたころにお店の畑を見たいと言ったときの、アイーダの有巳さん(小林シェフの奥様)の言葉です。有巳さんは目をぱちっとさせながら関西のイントネーションで話し、少し不思議そうな表情をこちらに向けていました。

    この日、ときどきお店に来て、畑やお料理を取材させてもらえないか、という申し出をしたのですが、実は編集部員がアイーダを訪れたのはこのときで2回目。シェフのこともお店のことも何も知らないに等しいわけで、なにはともあれまず畑を見たいと思い、聞いてみた次第でした。それに、野菜がなっている時期以外の畑を注意して見たことがなく、単純な興味がありました。

    小林シェフに作業予定を聞くと、次の日に畑を「掃除」するとのことでした。夕方伺ってもよいかたずねたところ、「ああ、丁度いいかもしれないですね」との返事。

    翌日、再びアイーダを訪れて裏口から声をかけると、シェフはTシャツにカーゴパンツ姿で出てきました。

    お店の畑の場所(いくつかある)を説明してもらいながら少し歩き、着いたのは何棟か並んだハウスのひとつでした。ハウスと言っても、一部はシートが外されていて、露地とほとんど変わらないように見えます。中にはアイーダのスタッフと思われる若い女性が2人。畑の端には異なる色や形の実をつけているナスが一列。その隣に、葉や枝の色がだいぶ褪せたトマトが一列あり、畑の掃除とは、このトマトの撤収作業のことでした。

    枝を支柱にとめているテープを外し、支柱を土から引き抜いてから、トマトの枝を抜いていきます。綱引きをするように腰を低くして、ひたすら引いて、抜いて、引いて、抜いて……。単純作業ですが、かなりの力がいります。このとき午後5時半頃。太陽がだいぶ西へ落ち、蒸し暑さも少し和らいできたころで、「夕方で丁度いい」とシェフが言っていた意味がわかりました。

    小林シェフは、「今日、夜は店やりません。畑をやったらもうその日は料理はできない」とも言っていました。畑と料理では、手やからだ、気持ちの使い方のふり幅が大きすぎるため、だそうです。

    女性スタッフはふたりとも長袖のウィンドブレーカーを着用していました。日差しや、ガサガサとした枝葉を気にせず作業するには、暑くても肌を出さない作業着が向くのと、蚊の対策にもなります。編集部員はしっかり刺され、かゆがっていたら小林シェフがスースーするバームを貸してくれました。それは銀色のかわいい缶に入っていて、ナチュラルな成分でできているとのことでした。

     

    トマトの枝には青い実がついていて、まだもう少し、収穫できそうに見えました。が、シェフはいくつかの実をチョンチョンと切り取ってカゴへ入れ、すべてを取ることはしませんでした。抜いた枝は畑のすみにまとめられます。乾燥させ、灰にして肥料として畑に戻すそうです。

    「畑でとれた野菜を自分のレストランで使って、知り合いのシェフたちに販売をして、保存加工もして、それでも多い分とか、植え替えでとりきれない分は畑に戻していく。うちではそうやって全部使いきります(小林シェフ)」

     

    素材を使いきるという言葉は、料理の取材をしていると比較的よく耳にします。ここで聞いたそれは、調理場の中だけでなく、畑のサイクルまで含んでいました。

    撤収作業が終わるころ、小川農園の小川さんがやってきました(アイーダは自らの畑で育てた野菜をベースに、小川さんからも野菜を仕入れている)。小川さんは自分の畑のようにごく自然に野菜の状態を見てまわっています。そして、少しするとあるナスの葉っぱを手にしました。その葉っぱは、白く変色していました。病気にかかっているそうです。夏にたくさん実をつけたナスの中には疲れてきてしまうものがあり、疲れると病気になるのだそうです(この場合ほかの野菜への影響はない)。人と同じです。

    作業が終わり、お店へ。アイーダのまわりには田んぼがたくさんあります。畑も、もとは田んぼだそうで、それぞれの脇を細い水路が巡り、水がたっぷりと流れていました。ビーチサンダルの小川さんは途中で水路に降りてじゃぶじゃぶと気持ちよさそうに足をすすぎ、

    穂を垂れた稲は風にゆれ、虫の音は控えめに響いていました。

    お店に着くと、有巳さんが苗を育てるためのトレイに種をまいている最中。戻ったシェフも一緒にまき始めました。「まいてるふり」なんて冗談を言いながら写真を撮りやすいように作業してくれていたようでしたが、あまりきれいにおさめられずに残念です。この種は秋冬から春に向けての野菜たちで、タイミングを見て、今日トマトを撤収したところに植え替えるそう。

    シェフに育てる野菜の種類をたずねました。

    「野菜は好きなものを植えてます。今(植えるとき)は何(の料理)を作ろうとか考えてないです。あ、でも、チーマディラーパは絶対に植えます。秋冬に作りたい料理があるんですよ。パスタです」

     

    このチーマディラーパのパスタ、小林シェフが「うちらしい」と言うメニューです。このお話はまた後日。まいた種にたっぷり水をやって、小川さんの持ってきた野菜の仕分けをして、この日の仕事はこれでおしまいです(厨房には、さや大根のピクルスの瓶詰。シェフはピクルスを作るためにこの大根を育てると、他の媒体で読みました)。

     

    Fin.