料理人を通して見る、知る 食の世界「キュイジニエ・オンライン」 CUISINIER ONLINE

    Serial連載

    小林 寛司La vita di naturale 日々をつむぐ料理

    Vol.3  播種 9月

    和歌山のレストラン「ヴィラ アイーダ」の日常を、編集部の取材をもとにお届けします。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    9月の下旬、ランチが終わるころに「ヴィラ アイーダ」に着くと、小林シェフたちは畑に出ていました。前回(8月下旬に)トマトを撤収したハウスの隣には、広い露地の畑があります。その端に、野菜の乾いた枝葉が積まれ(よく見るとナスの実がついています)、隣には、もみ殻の山ができていました。

    少し前に届いたシェフからのメールに、刈り入れを終えた田んぼの写真が添付してありました。脱穀を終えた稲わらの束が、乾いた田んぼに点々と置かれている写真です。束は湿ってしまわないように立てられ、小さなかやぶき屋根が並んでいるようでした。撮影したのは夕方だったのか、畑全体が黄金色に染まっていました。そのもみ殻が、畑の横で山になっていたのでした。
    シェフは一輪車にもみ殻を移し入れて、畝(※)を立てた畑へ押して行き、裸の土にもみ殻をかぶせていきました。土の保湿と保温のためだそうです(植物の発芽や生長にはある程度の温度と水分が必要)。

    ※畝(うね)…種や苗を植えるために土を直線状に盛り上げたところ

    別の畑を見ると、もみ殻は細く線のようにかぶせてあります。かぶせ方が違うのはどうしてかとシェフに聞くと、「(何かの確信があるわけではないが)全体にまいたらどうなるかなって思って(今やってみている)。もみ殻はいっぱいあるし。でも、うまくいくかはわからない(笑)」

    ハウスの畑の端には、フェンネルが一列、双葉を出していました。「あっち(別の畑)にもかわいいのが、ちょこちょこっとありますよ。たくさん使いたい野菜は、いろんな場所に植えてます」と、小林シェフは少しうれしそうでした。なるほど、畑を移動すると、そちらにもフェンネルがありました(編集部員は芽だけではわかりませんが、目印に植えた種の袋がさしてあります)。あっちにもこっちにもある、と言うと、シェフが「全部(の畑)!」と答えました。

    ↓ click or tap&swipe

    • 畑をひとまわり。夏野菜はほとんど撤収されていました

    • フェンネルの双葉です

    • 稲を刈り終えた田んぼ。春までは畑になります

    • こちらは先に、フェンネルらしい葉っぱが出ていました

    • お昼ごはん

    • 外は静かです

    この日の岩出は、曇っていたものの穏やかな天気で、ときどき鳴く鳥や虫の声が、響いて聞こえるくらいに静かでした。畑の横の小さな土手では、彼岸花が満開。そこは春にはノビルが出てくるそうです。

    食事をして、もう一仕事。みなさんそれぞれに役割分担したそうで、小林シェフはブルーベリー畑の雑草の刈り取りです。ブルーベリーの木に元気がなくなったため、撤収の準備だそうです。

    マダムの有巳さんは、先ほどシェフがもみ殻をかぶせた畑で、苗の植え替え(定植)作業。苗の根元に近い部分を注意深く観察しては、シュッシュッとスプレーをかけ、スコップで掘った穴に植えていました。掘った穴は、崩れてくるもみ殻ですぐに埋まるようで、「もみ殻、やるのはいいんですけど、邪魔です(笑)。あとから(苗を植えてから)のほうがよかったんじゃないかな。まあでも、やってからわかることですよね~」 そう言ってひとつひとつ、植え替えては育苗トレイ(※)を持って移動していきます。

    ※育苗トレイ…苗を育てるための、仕切りのついたトレイ

    苗を観察するのは、「シンクイムシ」がいないかの確認。米粒よりも小さいくらいの虫で、苗の芯の部分(生長点)を食べるそうです。生長点が食べられてしまうと野菜が育たなくなるので、いれば潰します。食べられてしまったという苗は、真ん中の部分がぷつんと切れたようになくなっていました。

    スプレーしているのは、虫がつきにくくなるという、自然由来の酵素のごく薄い液体で、アイーダが野菜を仕入れている小川農園の小川さんから教えてもらったそうです。「効果は、やってみないとわからないですけどね」と有巳さん。キャベツや白菜、シェフが必ず植えるというチーマディラーパなど、アブラナ科の野菜は虫がとてもつきやすいと聞きました。葉っぱを食べる「ダイコンハムシ」という小さくてかたい虫にも、有巳さんはだいぶ困っている様子でした。

    種はすべてが発芽するとは限らないため、トレイのひとブロックに何粒かまかれていました。この種たちは発芽率がよかったようです。複数の芽が出たものは土を割って、それぞれに分けていました。ほんとうはもう少し早く植え替えたかったものの、雨が続いてなかなか畑に出られなかったそうです。アイーダの畑は、土が粘土質のため、雨がふるとぬかるみに足がとられて、とても歩きにくくなります(編集部員も後日、雨の日の畑を体験しました)。お店の営業もあり、植え替えるタイミングをはかるのは大変だろうなと思います。

    円柱状に冷やし固めたオパリーヌ

    この日に有巳さんが植えていたのは、チーマディラーパと、ビエトラ(フダンソウ)。チーマディラーパは葉が大きく広がる植物ですが、食べるのは中央にのびて、蕾をつける先端部分のみだそう。「毎年、大きくなってから、なんで二列で植えたんや…わっさわっさなってとりづらいから、一列でよかったのに…!って、後悔するんですよ(笑)」お話を聞いたり、写真を撮ったりしている間、有巳さんは絶えず手を動かして、畑の中を少しずつ移動していきました。

    円柱状に冷やし固めたオパリーヌ

    お店の裏では、女性スタッフさんが最後のナスの収穫中。「(夏に比べて)ナスが、曲がるようになってきました」そう言いながらいくつかをとったら、このあいだのトマトと同じように、すべて根っこから引き抜きました。その近くの畑では、農業経験があるという男性のスタッフさんが種まき中。お店の畑は西洋野菜が多く、見たことのない野菜もあると言っていました。土にさしてある種の袋を端から見ていくと、ひとつの畝でも10種以上の野菜を植えているようです。そういえば先月見たナスも、一列の中にいくつもの品種がなっていました。

    雑草を刈り終えた小林シェフが、耕運機を押して、お店の裏の畑へ。先ほどナスのなくなったところを何往復かして、鍬も使って、土をかき混ぜます。

    その次は、種を植える前の畝作り。スタッフさんが板を使って、両脇から土をおこし、山のようにしていきます。畝のおこし方にもポイントがあるようで、シェフのチェックが入っていました。

    円柱状に冷やし固めたオパリーヌ

    いつの間にか太陽が沈み、あたりがなんとか見えるくらいの薄闇になりました。ハウスの隣の畑に戻ると、有巳さんの植えた苗が何列にも増えていました。シェフはその上からもみ殻をかぶせ、スタッフさんは残りの定植にとりかかります。そうして、完全に暗くなると、この日の畑での仕事も終わりました。

    お店へ戻るとスタッフさんは、翌日のデザートの仕込み。有巳さんはイベント用のピタパンを焼いて、シェフはお店で毎日焼くパンのガス抜き。小林シェフは、「今が一番忙しいですよ。野菜がなりはじめたら、あとは収穫するだけです」と言っていました。

    • 使い終わった耕運機は土を流して片付けます

    • ひとつ一つ大事に植えられていく苗

    • 手元が見えなくなるぎりぎりまで畑にいました

    • お店に帰ります

    • オクラ。収穫せずに大きく育てたものです

    • パンのガス抜きは、毎日のさいごにするようです

    • イベント用のピタパン。焼けるとポンと膨らみました

    • 小窓の一輪挿しは小林シェフのお母さんが作ったものです

    • 静かに一日が終わりました

    (つづく)