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    Serial連載

    小林 寛司La vita di naturale 日々をつむぐ料理

    Vol.8  イタリア・ベネト

    villa aida昨年秋の旅行のアルバムです。北イタリア・ベネトのワイナリーで出会ったさまざまな醸造家たち。自然に寄り添う暮らしが、おのずとそこにありました。

    PHOTO: CUISINIER編集部

    Venezia → Belluno(ベネチア→ベッルーノ)

    ベネチアから始まったイタリアの旅。水の都を軽く散策し、翌朝まだ暗いうちに北のベッルーノ(Belluno)に向けて出発です。

    ベネチア・マルコポーロ空港で車を借り、長いドライブ。前方に雪をかぶった山脈を見ながら、小林シェフが「(イタリア時代)働いてたレストランの近く」と言いました。「近くって言ってもここから2時間だけど。冬季オリンピックがあったところ」今回はワイナリーを巡る旅。最初に向かったのはプロセッコ(発泡ワイン)の造り手でした。ポレンタ用のトウモロコシ畑を横目にひたすら走り、小さな町をいくつも通り過ぎます。そのうちブドウ畑がぽつぽつと見えはじめ、車は山道をぼっていきました。

    カーサ・コステピアーネ(CASA COSTEPIANE)で迎えてくれたラファエルさん、アデルキさん兄弟とお母さん。タンクの中にはちょうど発酵途中のプロセッコが入っていました。表面に白っぽく浮かんだ膜(写真で吸い取っているもの)は死んだ酵母で、数回にわたって取り除くと、次第に香りがきれいになっていくそうです。

    お母さんの作ってくれたイカと豆のトマト煮込みは、塩が強めでオイルもたっぷりの、しっかりとした味でした。

    Dinner in the loft(屋根裏ディナー)

    CASA COSTEPIANE(カーサ・コステピアーネ)を出て、レストランでランチの後、Il Moralizzatore(イル・モラリッザトーレ)へ。薬剤師のアンドレアさんと獣医のエンリコさんのワイナリーです。

    夜は彼らの仲間が集まってホームパーティ。

    暖炉に薪をくべ(ブドウの枝でした)、その上でスープを温め、ラディッキオを焼きます。サラダ、リゾット、ステーキ、ワイン。大きなテーブルを囲み、みんな夜更けまで飲んで食べて話して、それぞれに帰っていきました。

    Two Danieles(ふたりのダニエルさん)

    2日目は西へ、ビツェンツァ(Vicenza)方面に走り、ダニエーレ・ポルティナーリ(DANIELE PORTINARI)へ。

    畑のブドウはベネトの伝統的な棚栽培。木が育ってしまったからだそうですが、「みんな棚じゃない栽培に憧れるけどこういうのもいい」とヴィニュロンのダニエルさん。この日は半袖で気持ちよくすごせる天気でした。「この陽気は今日までで、明日からは冬になる(小林シェフ訳・以下同)」ヴィニュロンは天気に敏感です。

    夕方、ダニエーレ・ピッチニン(Daniele Piccinin)へ。作り手のダニエルさん(先ほどのダニエルさんとは別の方)は元ソムリエで、とても明快な英語が印象的。料理も上手で、手際よく野菜を切り、ブルスケッタやパスタを作ってくれました。

    La Biancara(ラ・ビアンカーラ)

    ラ・ビアンカーラは、小林シェフが今回の旅のなかでも訪問をとくに楽しみにしていたワイナリー。当主のアンジョリーノさんはとてもやさしいおじいちゃん、といった印象でした(風貌も動きもとてもスマートです)。

    畑は広くてアップダウンがあり、場所によって土っぽかったり、石のようだったり。「こっちは太陽がよくあたるけどあっちのほうが肥沃」「収穫時間はこっちは6時であっちは9時」といった具合です。

    ラ・ビアンカーラのある地域では、ビオワインをつくっているのは全体の2割ほど(当時)。「みんなで協力しているから、2、3年したらすべてがビオになるだろうし、そうしたい。石は雨風を受けて細かくなり、草は微生物で分解されて土に返り、養分を得た土が野菜や果物を育てる。ミネラーレ、マンジャーレ、その繰り返し。人間は偉そうにするのではなく、自然が自分を受け入れてくれるように。自然の中での調和が大事」アンジョリーノさんはそう話し、腰に手をあててからだを大きく(偉そうに)見せたり、(謙虚な様子で)縮めたりしました。

    ランチはアンジョリーノさんの奥さんが用意してくれたキャベツとリンゴのサラダ、塊のチーズ、メインディッシュにトマトパスタ。素材の力が伝わる、この上なくシンプルな料理です。小林シェフはこのメニューの、からだへの負担の軽さにハッとした様子でした。

    Time for soil and Wine (必要な時間)

    ワイナリー巡り最終日。アマローネとヴァルポリチェッラの造り手モンテ・ディ・ラーニ(Monte dei Ragni)へ。代々この土地でワインを作っているラーニョ家。先祖は400年前からこの地に住んでいるそうです。

    畑ではブドウ以外に、さくらんぼ、オリーブ、野菜を育てているそうで、「この地域で僕だけ(他はブドウしか植えていない)。いろいろな種類を植えることで昔のままが保たれる」とラーニョさん。

    「台木で接木して、10年してイタリアの血にかわる。土地がやせているから樹齢の高い木でも細い。それでも、根が深くまではり土地の養分を吸う。収穫が終わったら花を植える。(畑には鶏の巣箱が80個あり)鳥が来て環境を直してくれる(ラーニョさん)」

    醸造前にブドウを干すのがこの土地の昔からの方法で、ローマ人の技術だそう。かつては甘口ワインのための技術でしたが、いつからか辛口ワインにも用いられるようになったのだそうです。「20年もたせたい。ブドウを干さずに造るワインはそんなにもたない」とラーニョさん。全てを手作業で行い、最低でも3年ねかせてから出荷。こうした造り方のためできる数も少なく、昔からの付き合いのあるところにしか売らないと話しました。

    10年ものの甘口ワインを飲ませてもらいました。年数を経た、バランスのとれた味です。地元では赤ワインを川魚(塩とビネガーで締める)に合わせることがあるのだそうです。

    ラーニョさんのオススメの店でランチをとり、午後はモンテ・ダ・ローラ(Monte Dall’Ora)の森の中のブドウ畑へ。ここではブドウの茎や搾りかすを森に戻し、土づくりをしていました。

    小林シェフはそれを見て、「土に負担をかけると数年で壊れるけど、土になるまでは10年単位の時間が必要。たぶん」と言いました。自分で畑をするシェフの声には、実感がこもっていました。

    ヴェローナ、ミラノ、パリ

    旅の途中では都市の観光もはさみ、最後はパリのセプティムでディナー。ヨーロッパの空気をたっぷり吸って、帰路へ。

    Fin.

     

    取材後記

    「環境を変えるとクリエイティブな感覚が戻ってくる。だから旅をしたり、外に行くようにしています」と話す小林シェフ。このイタリア旅行では、旅行中も旅行後も「人ですね。人に会う旅」と口にしていました。今年はガリシアやヘント(ベルギー)、ブルターニュなどを訪れ、新たにたくさん刺激を受けた模様。それらがシェフのお料理に吸収されるのが楽しみです。